3月のライオン(夢)

□隈倉12
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みんな酒が入り気分がよくなってきた時、

「隈!こんなに好きだって言ってくれてんだから付き合ってやれよ!」

酔った会長が言ったこの言葉に反応したのが、自分でもわかった。

「そんな!恐れ多いです!!」

会長の言葉に両手を振って返す優。

「優なら行けんじゃねぇ?」
「そうだな、料理とか上手いしな」

「嬉しいですけど!何を言ってるんですか二人とも!」

飲んでいたウイスキーを零しそうになりながらスミスと一砂を見て叫ぶ。

「ただなぁ、隈倉さんがあのコレクションを見て引かなければなぁ」
「あのコレクションは、いや、そうだなぁ」

「やめてぇ!」
「なんだなんだ、こんな爽やかでも男か?」

「いやいやいや!」
「そういやお前の部屋行ってもそういうの見た事ないな」

「持ってませんから!」
「まぁ、お前なら困んないか」

「なんか嫌ですよそれ!」

みんなにいじられて赤くなりながら否定している優を見ていれば、宗谷がグラスを持ってぽそりと呟く。

「可愛い人ですね。表情の変わりようが見ていると面白い」

水を飲むように零した。

「・・・」
「どうしました?」

「いや」

優は可愛いし面白い。

そんな事はみんなが分かっている。
なのに、自分以外の男の口からその言葉が出てきたことに苛立ちを感じる。

「優くんのコレクションってなに?」

美咲が聞けば、うっと詰まってチラリと隈倉を見る。
そして、前に六十センチオーバーのパフェを頼むと言った時と同じように顔を赤くして両手で覆った。

「日本酒が、好きなんですっ」
「渋!」

「うわぁ!二人のせいだぁ!!」

何でこんな所で隈倉さんにこんな暴露しきゃいけないんですかぁ!と、爆笑している会長をよそにスミスと一砂に文句を言う。

「くっ」

そんな優を見て笑えば、一気に首まで赤くなった。そして、

「もう生きていけないっ」
「元気だせ!優!」

「いっそ今度見に来ませんかって誘ってみ」
「無理言わないでくださいぃ!」

泣きそうな顔を上げる優が面白くて、可愛い。

「面白れぇな!優くんが女だったら隈か宗谷に見合いさせてやりたかったぜ!」

会長が、何度も思った事を口にした。

「宗谷名人もですか?」
「こいつもいい年だってぇのに彼女も作らねぇからなぁ」

美咲と会長の会話を聞きながら、隣に座る宗谷を見る。またフルーツに手を伸ばそうとして、グラスを倒した。

「おま!」
「今タオル持ってきますね!」

「すみません」

立ち上がった美咲にそう言いながら慌てた様子もない宗谷。
せめてグラスだけでも戻せと手を伸ばす前に、影がかかった。

「あまりかかってませんね」

優がおしぼりで宗谷のズボンを拭いて行く。そして、

「怪我がなくてよかったです」

グラスも割れてないしと、細い手で宗谷の濡れた手を優しく包んできれいに拭いた。

「これがタラシテクか」
「なんですかそれ?!」

会長にからかわれて驚きながらも、テキパキとテーブルの上を片付けていく。
そして、タオルを持って戻ってきた美咲と交代した。

「よかった、シミにはならなそうですね」
「はい、優さんのおかげです」

宗谷が言えば、自分の席に戻った優がニコリと笑う。
また、苛立ちが胸に広がった。

「惜しいな」

女だったら本気で宗谷に嫁がせたいぜと会長が零せば、苦笑したようにウイスキーを飲んだ。

「・・・」

君が女だったらよかったと、何度も思った。

なのに、他人からその言葉が出てくると不快になる。
その理由が分からない程、自分の気持ちに鈍感な訳ではない。
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