3月のライオン(夢)
□隈倉4
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「あー、頭いてー」
「風邪が?」
「二日酔いですよ」
今日対局とかじゃなくてよかったーと、今頃家で死んでいるだろう一砂の事を思い苦笑した。
「昨日一緒に飲んだ奴が面白くて、つい飲みすぎました」
「一砂と行ったんじゃないのか?」
「そうなんだけどさ、店で会った奴」
前、会長たちにつれて行かれた店で女の子たちが“優くん”って話してたろと、控室に居た横溝に話しかけながらこめかみを抑える。
「あー、いたな」
「昨日居たんだよ。その優くんが」
あの新人の子落としてたと笑い出す。
「店の子全員に手出しててよく出禁にされないな」
「そう思うだろ?ところが、優くんは誰にも手を出したことが無いらしい」
「は?」
「本人は落とした自覚なし。天然タラシだったよ」
天然タラシで誰にでも優しいからあの店じゃもはやアイドル。
“みんな”の優くんだった。
「それも、一緒に飲んでみたらめっちゃ良い奴で。なに、あいつ最終的に何がしたいの?」
「俺に聞くなよ」
「人懐っこくて、隈倉さんの話しし始めたらもう少年のような目で見て来るわ、かといって会えるようにセッティングしてくれとかサインもらってきてくれとか言わねぇし」
そんなだから店の女の子全員に愛されてんだよコンチクショウと、テーブルに突っ伏して涙を流す。
そしてその肩にそっと手を乗せる横溝。
さらに、そんなスミスの泣き語りを壁の向こうで聞いていた隈倉が居たとかいないとか。
「今日の獅子王戦予選もかっこよかったんだよ!」
「分かったから、興奮してグラス倒すなよ」
「うん!!」
「お前ホント、テンション上がると妙に幼くなるな」
「そこが可愛いんじゃない!」
「あ、優くーん!この前はお菓子ありがとう!」
「アレすっごく美味しかったー!」
「どういたしましてー!」
「ご機嫌ねぇ」
「リエさん」
「その様子だと、今日は隈倉さんが勝ったんだ」
「うん!」
「、もう!本当に可愛いんだから!」
このままお持ち帰りしたくなっちゃうと、目をぎらつかせるリエの腕からかおるが奪い取る。
「抜け駆け禁止ですよ!」
「冗談よ、冗談」
「目が本気でした!」
「まぁね。優ちゃんなら間違いが起こっても有りよね」
「優くん気を付けてね!」
「聞いちゃいねぇよ」
ここにはいない人の事で頭がいっぱいの優に、リエもかおるも呆れたように笑う。
「スミスさんたちにお願いすればよかったのに」
「?」
「“会わせて”って」
言うが、優は笑って首を横に振る。
「将棋って、勉強した分だけ強くなるんだって」
隈倉はA級で、おまけに九段で、今日の対局も勝ち抜いた。
「大切な時間を奪えないよ」
ケーキ屋で偶然出会って握手までできた。
「だからそれでいいの」
ニコニコしながらウイスキーを飲む。
「もっ、やーだ!!優くんどこまで純なの!!」
「私がそれ以上の幸せ教えて上げるから!」
「一晩中天国見せて上げるから!!」
あたしがあたしがと騒がしくなった店内に、マスターの雷が落ちる五秒前。