3月のライオン(夢)

□藤本16
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高校を卒業して三年。社会人三年目の春。

「和子」
「はい」

「B1に昇級する。結婚するぞ」
「はいっ」

雷堂くんの昇級が決まり、私たちは結婚する事になった。

「それで、部長にスピーチをお願いしたくて、」
「「結婚!!?」」

部署の全員が立ち上がって私を見て来た。

「ちょっ、もしかして前に言ってた婚約者!?」
「はい」

「って事は昇格したって事ですか?!」
「はい」

「いったい何歳の人なんだ!?」
「同い年です」

入社して三年で平から昇格!?とみんなが騒ぐ。

「あ、いえ。高一の時から、」
「中卒!?やめなさいそんな男!」

「いえ、高卒です」

学校に行きながら働いてたんですと説明すれば、更にみんなヒートアップしていく。

「スピーチはいい!だから相手を連れてきなさい!」
「ですが、忙しい人なので、」

特に今はと、明日も獅子王戦に向けて一人詰将棋をしていた姿を思い出す。

「じゃぁ写真とか!」
「写真、はないんですけど」

チラリと時計を見て、まだ間に合うかなとテレビのスイッチを入れた。

部長がいつもMHKを見ていたおかげで、電源を入れたらすぐに映った将棋中継。

『おめでとうございます藤本七段』

聞こえて来たその名前に、間に合ったと胸を撫でおろした。

『昇級され、今回は対局も白星と言う幸先のいいスタートですが』

今年の目標はと向けられたマイクに、鋭い目を向ける彼。

『今年の目標とはどういう事ですか』

ああ、彼の地雷を踏んでしまったと苦笑が漏れた。

『今年だろうが去年だろうが来年だろうが、俺が目指してるのは名人です』

“俺の目標はプロになる事じゃない”

『白星を取ろうが投了しとうが、それが揺らぐ事はない』

“名人になる事だ”

『俺が名人戦に挑むとき、相手が誰だろうが知るか。絶対に引きずり下ろして名人になってやるっ、言いたい事はそれだけだ!』

雷堂くんのインタビューはそこで終わってしまったので、私はみんなを振り返った。

「え」
「いや」

何であの流れでテレビをつけたんだと後輩に聞かれ、伝えていなかったと反省した。

「さっきの彼が、結婚相手です」

一拍置いて、全員に絶叫された。
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