3月のライオン(夢)
□藤本15
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「和子さん、婚約してるって本当ですか?」
平日の午後、仕事もひと段落ついた所で後輩社員に声をかけられた。
「はい。本当ですよ」
なぜか、あの日休憩室で放った一言が一気に広まったようで、みんなの視線を感じない日はない。
「その相手ってどんな人なの?」
「どんな、」
後ろから話しかけてきた先輩の質問に、少し上を向いて考える。
「我が強くてなんでもはっきり言って、敵を作りやすいですけど嫌われない人ですかね」
「どんな男なんだそいつは!大丈夫なのかい!?」
突然やって来た部長に驚いたのは私だけで、先輩たちは気にもしていなかった。
「本当よ!婚約してるのに指輪も贈らないなんて!」
「あ、それは私が断ったんです」
私はアクセサリーをそんなにする方ではない。それも指輪は料理をする上でとても気になってしまう物なのだ。
「そんな理由で断ったんですか!?」
「はい」
「その相手はちゃんと仕事をしてるのかい?!」
「はい、とても真面目に」
毎日棋譜を睨んでいる姿を思い出す。そりゃもう、私なんかより一分一秒を大切に勉強している。
「それで?結婚式はいつ?」
「それはまだ、位(くらい)が一つ上がったらと約束していたので」
私の言葉に、急にみんなの顔が険しくなった。
「それ、本当に結婚する気ある?」
「?」
首を傾げる私に、みんながため息を吐く。
もうすぐ六月、今年も順位戦が始まる。