3月のライオン(夢)

□藤本15
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「和子ちゃん、また部長の相手してたの?」

お昼休み、お弁当を広げている私に同じ部署の先輩が声をかけてきた。

「はい、今日は仕事も落ち着いていたので」
「将棋の相手してくれるのなんか和子ちゃんくらいだから、お昼終わったらまた声掛けられるんじゃない?」

「そうかもしれませんね」

それもまた楽しいですと言えば、ため息を吐きながら隣に座られた。

「部長は妻子持ちよ?」
「はい。そう聞いてます」

「なんであんなおじさんがいいの?」
「?」

「好きなんじゃないの?」
「はい?」

先輩が何を言っているのか分からなくて首を傾げる。

「誰がですか?」
「和子ちゃんが」

「部長をですか?」
「みんな言ってるわよ」

いつ不倫に発展するんだろうってと、想像の斜め上過ぎて頭がついて行かなかった。

「えっと、残念ながら、というか、そう言う気持ちはありませんでした」

言えば、先輩が私の顔を見て来る。私も先輩を見つめ返す。

「じゃぁ、なんで将棋なんか付き合ってるの?」
「私も将棋が好きなので」

「それ本気で言ってる?」
「はい」

先輩は持っていた箸をおいて盛大にため息をついた。

「可愛くて性格だっていいのに」

何か小声で嘆いているのを眺めていると、部長がやって来て声をかけてきた。

「ここに居たのか!すまんが一局頼めるかね」

さっきの続きがしたいんだと言われ、食べ終えた弁当箱をしまって立ち上がる。

「和子くんがわが社の社団に入ってくれれば、かなりの戦力になるんだがなぁ」
「いいえ、私は勝ち負けにうといので」

そう言うのはどうしても向かないんですと、先輩にも一声かけようとしたが、

「部長、和子ちゃんに将棋ばかりさせてたら婚期逃しちゃうじゃないですか」

会社だって大切な出会いの場なのにと、小言を零した。

「それなら心配いらん!私が見合い相手を見つくろうからな!」

なぜだか私の結婚について言い合う部長と先輩。

「あの、」
「和子くんはどんな男が好みだ?やっぱり今どきは高学歴が、」

「いえ」
「学歴だけじゃダメですよ。高収入、高身長が揃ってないと」

私が入社した時から目をかけてくれているとは思っていたけれど、まさかここまで心配してくれていたとは。先輩の優しさにちょっと感動してしまう。

「その、ありがとうございます。ですが、私は大丈夫ですから」

婚約者がいますのでと言えば、休憩室にいた全員に立ち上がって驚かれた。
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