3月のライオン(夢)

□藤本13
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「すごく、雷堂くんの部屋っぽいです」
「俺の部屋だからな」

今日は雷堂くんの家に泊まりに来ていて、雷堂くんの部屋で寝る事になった。

本棚には将棋の本や資料がぎっしり詰まっていて、一人暮らしをしているあの部屋と同じ雰囲気を感じた。

勉強机の上に置かれている将棋セットに、どうしても顔が緩んでしまう。

最近は折り畳みの物ではなく、ちゃんと足のついた盤を使っていたからこそ、少し懐かしいとさえ思った。

「一局付き合え」
「はい」

引かれた布団の上、二人で向かい合って座る。

襖の向こうから聞こえてくるテレビの音と、水明さんの話声。


「雷堂くんの家はみんな仲がいいですね」
「どこがだ」

パチパチと、部屋に響く駒音。

「眼鏡にはなれましたか?」
「ああ」

「明日は何時に起きればいいんですかね」

お義母さんは普段何時から起きてるんですか?と聞いても、知らないと言われた。

「・・・」
「・・・」

お互い口を閉じて、盤を見つめる。
とても静かなひと時。

「お前がそうしたいなら、すぐに結婚してもいい」

それは、食事の時に上がった話題だった。

『もう今からでも結婚して家の子になっちゃったら?』

私の事を歓迎してくれたお義母さんのセリフ。
チラリと雷堂くんを見るけれど、盤を睨んでいるだけだった。
怒っているのかと思うあの真剣な顔で。

「あまり考えていませんでした」

パチッと、王を守る為に駒を置く。

「B1になったらと言っていたので、その時にするだなって」
「良いのか。それで」

「はい」


パチパチと、攻めてくる雷堂くんを受け止めながらかわす私。

「だって、雷堂くんの目標は名人になる事じゃないですか」

顔を上げたら、一瞬だけ目が合った。

「なら、遅かれ早かれ結婚はするわけですよね」
「遅かれは余計だ」

「あ」

守っていた王が、いつの間にか取られていた。

「・・・」
「・・・」

「怒りました?」
「怒ってない」

「・・・」
「・・・」

「来週は対局がある」
「はい。じゃぁお弁当を作りますね」

「ああ」

感想戦の為に駒を並べていく。

「ケーキと、」
「両方」

「はい」

こうして、いつもみたいに将棋を指して眠りについた。
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