3月のライオン(夢)
□藤本11
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「あの、お父さん」
雷堂くんの家から帰って来た日の夕食時、家族全員が揃っている中で私は口を開いた。
「どうした?」
急に改まって声をかけた私に、お父さんだけじゃなくて全員が首を傾げて見てくる。
「その、」
恥ずかしすぎて顔を上げられない。
「あ、会って欲しい人がいるの」
シーンと、水を撃ったように静かになる居間。
そこに、テレビから流れてくる声だけが虚しく響いて行く。
「まぁ!やっぱり彼氏が居たのね!」
固まっているお父さんよりも早く、お母さんが嬉しそうに駆け寄ってきた。
「たまにお弁当作ってるし、前より頻繁にお菓子も作る様になったから怪しいと思ってたのよ!」
「あ、怪しくはないと、」
「それで?どんな人?同級生?」
「う、うん」
「ど、どこの馬の骨とも分からん若造に嫁がせられるか!」
「い、今すぐにって事じゃないよ!」
「そうよね。それにまだどこの馬の骨かも分からない人って決まってないしね」
「母さん!」
「良いじゃない。和子が初めて彼氏を連れてくるくらい」
言い合う両親に、ここはちゃんと訂正しなくてはならないと口を開く。
「か、彼氏じゃなくてっ」
緊張で少し大きな声になってしまった私に、またみんなの注目が集まる。
「き、今日、プロポーズ?されたの?う、うん。されたの、多分。それで、明日婚約を認めて欲しいから挨拶に来るって」
「「婚約!!?」」
「姉ちゃんにプロポーズって、どんな奴だよ」
高校卒業したばっかなのにと、和也がテーブルに肘をついて言ってきた。
私はその言葉に、テレビへ顔を向けて指をさす。
「この人」
おじいちゃんもお父さんもお母さんも和也も、全員がテレビを見る。
そこには、
『藤本六段はやはり攻めていきますね』
『ですが、河原八段の守りも固く、』
MHKで雷堂くんの対局が放送されていた。