3月のライオン(夢)

□藤本2
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私と彼が出会ったのは中学生の時だった。
彼、藤本雷堂くんはいつも怖い顔で将棋の本を睨みつけていた。

雷堂くんは怒ったような顔をしているけれど、だからと言って本当に怒っている訳ではない。ただ、

「雷堂!今日の放課後、」
「奨励会に行くから無理だ」

一生懸命なのだ。

歯に物を着せぬ物言いに、彼はよく敵を作る。
けれど真っ直ぐで自分を偽らないから、そんな強さに人の注目をよく集めていた。


ある日本屋さんで棚を眺めていたら、「将棋の心得」と書かれた本を見つけた。
開いてみたけれどチンプンカンプンで、家に帰ってお父さんに聞いた方が早いなと本屋を出る。

「お父さん、将棋って楽しい?」
「んー」

「私にもできる?」
「んー」

盤上を見て生返事しか返ってこない。
頬を膨らませれば、お父さんの向かいに座っているおじいちゃんと目が合った。

「将棋に興味があったのか?」
「ん〜、わかんない」

だってルールさえよく知らないんだからと言えば苦笑され、お父さんが見つめ続けている盤を指さす。

「これが王、取られたら負けだ」
「うん」

おじいちゃんの説明を聞きながら、唸りだしたお父さんを見上げて首を傾げた。

「負けたら悔しい?」
「んー」

「とっとと降参しろ」
「いやっ、まだだ!」

「おねぇちゃーん!」
「和子、夕飯作るの手伝ってー」

「はーい」

駆け寄ってきた弟を抱きしめて台所へ向った。
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