短編集2(夢)

□ゼブラ5
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「じぇブにゃ」

ホテルグルメへ行ってからと言うもの、バカの一つ覚えみたいにずっと呼びかけてくるこの赤ん坊。

「みゃー」

呼びかけてくる以外は以前のような鳴き声を上げ、四つん這いで歩いている。

「・・・」

その姿を見て、考える。

言葉を覚えることができ、話すこともできた。では二足歩行もできるのではないだろうか。

足元へやって来た子供の首後ろをつまんで少し持ち上げる。されるがままで両手をぶらつかせてこちらを見上げてくる子供。

「みゃー」

首後ろを持って少し前へ引っ張れば後ろ足で歩くだろうと思ったのだが、ズルズルと引きずられるだけで終わった。

「・・・」

ここで改めて思う。この赤ん坊はなんなんだ。

見た目が人間に近く、言葉を話せたから人間として認識しているが、

「んんー」

手を前足のように動かしてしがみついて来る。人間のように指を使っている訳ではない。

爪も人間のように平らではなく、鋭い鍵状になっている。そして肉球。

トリコに言われ(小松やマンサムにもかなり言われた)、家に届いた子供用の服を着せてみたが、着脱が自分でできないらしく排泄の失敗も何度かあった。その度風呂に入れたりとかなりめんどくさかった。

ので、その憂さ晴らしもかねて(釈放条件もあるので)森へ来ている。

グルメホテルから帰る道すがら凶悪犯は何人か捕まえたので問題ない。

「歩けねぇ訳じゃねぇだろ」
「みゅ?」

高いところに飛び乗ったりする時の脚力から言って足腰の力は悪くない。では何が原因なのか。

現在、世間一般ではそれをパジャマと呼ぶ服を着ている子供。それもズボンの中にシャツをインしている姿は、子供でなかったらかなりダサい。

いや、その格好で森にいる事を考えるなら場違いだ。だが、着せたり脱がせたりを考えるとこれが一番よかったのだ。本人も動きやすいらしく気に入っているようだし問題はない。

しかし、この人間なのか動物なのか分からない子供をどういう意味で育てればいいのか、ゼブラには分からなかった。

「みゃー」

手を離せばまた四つん這いになり、こちらを見てくる。そして、

「・・・何してやがる」
「んんー」

まるで本当の猫のような身軽さで肩まで登ってくると、その場であくびをしたのだ。

声をかけてもか細い鳴き声で返してくるだけ。まるで肩に引っかかる様な体勢で眠り始めた子供に、ため息しか出ない。


いくら超一級危険生物と言われるゼブラとはいえ鬼ではない。

子供が落ちないように手で支えれば、尻尾が手にあたる。

そして改めて思った。この子供は人間ではないと。


だが、普段はうまく使えない指で肩のシャツを握っているその手を振りほどこうという気にもならなかった。

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