短編集2(夢)
□グリンパーチ1
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その人たちは突然やってきた。私は何も出来なかった。
村が焼けていく。それを呆然と見つめていた。
「ケヒヒッ、いいもんが残ってたぜっ」
聞えてきたのは初めて聞く声で、決して安心なんかできる声でもなくて。
私は、首の後ろに痛みを感じながら意識を手放した。
あれからいったいどれだけの時間が経ったのだろう。
それは時間で表すにはあまりにも長くて、自分が人間だということを忘れてしまうには十分な日々だった。
周りには私と同じ境遇の人たちが沢山いて、毎日何人かいなくなって、いなくなったと同じか、それ以上の人たちが連れて来られた。
もしかしたら、私はこの時から運がよかったのかもしれない。
入れ替わりの激しいこの場所で、今でも生きているのだから。
ただ、この時の私はそれが良いことだとは思っていなかったけれど。
「おら、休んでんじゃねぇぞ!」
毎日毎日、休む間もなく好きなようにいたぶられる日々。
何がそんなに楽しいのか、男たちはニタニタと口元を歪めて私を見下ろしてくる。
少しずつ少しずつ、潰れていく私の心。
抵抗していたのが随分前のことのように感じる。今じゃ、何も感じない。
人間って不思議。
こんなに酷いことをされてるのに、まるで自分のことじゃないかのように思えるんだから。不思議。
「っくっくっく、今日もいっとくか?」
ああでも、
「っぁ、くぁっ」
やっぱり、今酷いことをされているのは私で間違いなかった。毎日、首を絞められるたびに、
”苦しい”
私をこの現実に引き戻す。
冷たい床。いろんな所から聞えてくる悲鳴。すすり泣く声。
そんな音を聞きながら、ただ天上を見つめるだけの毎日。あの男たちが戻ってくるまでの、つかの間の静寂。
私にとって、のだけど。
「いやぁぁぁ!!!」
「助けてくれぇぇ!!」
聞えてくるのは何かが千切れるブチブチという音と、破裂するようなバンッという音。
つまり、誰かが居なくなった音。命が摘み取られた音。
私はそっと眼を閉じる。それでもこの現実は変わらない。
いつからだろう。みんなみたいに叫べなくなったのは。