3月のライオン(夢)
□藤本4
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「おーい!またこんな遅くまで残ってたのか」
俺も帰る所だから送ってってやると、腕を引かれるまま外へ出る。
「お前なー、将棋をするなとはいわねぇけどよ。ちゃんと青春してるか?」
「将棋が俺の青春ですが?」
「かー!可愛くねぇ!」
狭いタクシーの中で騒ぐ神宮寺に、雷堂はうるさいと言わんばかりに顔をしかめる。
「彼女の一人でも作れってんだ!」
「神宮司さんには関係りません」
「来年から高校だろ?そしたら、」
「プロになります」
「かー!!」
額を手でたたく神宮寺を無視して前を向けば、
「ま、今どきの女の子は将棋に興味もないか」
テレビでやってるアイドルとかスポーツ選手に夢中だよなと苦笑交じりに呟く。
確かに、クラスのほとんどがそんな感じだった。だが、頭に浮かんでいる一人はそのどれにも当てはまらない。
みんながしているアイドルと同じ髪型、みんなが持っているスポーツ選手のカード。
あいつがそのどれかを持っている所も、している所も見たことが無い。
「何でだ?」
「え?」
受験が近づき、勉強に追われている周囲。だが、こいつ、和子はいつも通り教科書とノートを開いているだけだった。
今さら焦るなど、バカのする事だ。
「興味が無い訳じゃないんですけど・・・」
持っていた鉛筆を顎に当てて考えながら答える。
「そうしたいって思える程、好きじゃないからですかね?」
「俺が聞いてるんだ」
苦笑したようにクスクス笑って、ちゃんと考えた事がありませんでしたと顔を上げる。
「どうしたんですか?急に」
「将棋の先輩に」
今どきの女について聞かれたが、お前はそうじゃないのかと思ったと言えば、
「同じですよ」
和子は笑って教科書に目を戻す。
「私も、みんなと同じです」
「どこがだ?」
眉を寄せても、曖昧に笑ってごまかされた。
意味がわからん。
会話はここで終わり、和子はまた勉強を再開した。