ブリーチ2(夢)

□カナ49
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森が静かになった。

卯ノ花が結界を解くよう言おうと伊江村へ顔を向けたその時、

「に、逃げて下さいっ!!」

森から走って出てきた華奈が結界の外側から必死にこちらへ訴えてくる姿に、何があったんだと伊江村が駆け寄ろうと手を伸ばすが、

「来ちゃダメです!!逃げてっ、逃げて下さい!!」

あんなに強い華奈がこんなに必死に逃げろと言うなんて。
伊江村が卯ノ花に指示を仰ごうと振り返った。しかし、後ろでドンっと結界を大きく叩く音が、

「おい、この結界をとっとと消せ」
「ざ、更木隊長!」

同じ死神という、仲間が帰ってきたというのに、なんだこの感じは。

「おい、聞こえねぇのか」
「ぎゃー!隊長が来ちゃったー!!伊江村さん逃げて下さいっ!花太郎も逃げろー!!」

「ぼ、僕ですか?」
「コラ、余計なこと言ってんじゃねぇよ」

「ぎゃぁぁ!」

華奈の胸倉を掴んで持ち上げる剣八と、暴れてもがいている華奈。

なんだこの光景は。

「あらあら」

なぜか微笑みを浮かべる卯ノ花。そして、

「もう決着はついたようですね。結界を解いて怪我人の介抱を」
「は、はっ!」

「うわっ!まっ!ダメですよ伊江村さん!!」

華奈のその悲鳴が聞こえたのはもう結界が解かれた後。つまり、

「華奈」
「は、はひ」

「俺と本気でやり合え」
「ご、ご勘弁を」

「なら、仕方がねぇなぁ?」

はぁぁと、伊江村と花太郎に顔を向けて口角を上げる剣八に背筋が凍る。

「ざら、更木隊長っ?」
「と、とにかくっ、治療をいたしますので、救護テントの方へ」

「そんなもん必要ねぇよ」

どうせこれからまた傷作んだからよぉと、開いている方の手を二人に伸ばそうとしたその途端、

「必技!すり抜けの術!!」

剣八の腕から重みが無くなった。

「ちょっ!!華奈七席?!」
「すみません!緊急事態だから許して下さい!!」

伊江村と花太郎を肩に担いで走る華奈は、サラシ姿。

「わー、サービスー」
「荻堂お前!!」

伊江村が何か文句を言おうとしたが、華奈の走るスピードが早すぎてもう聞こえなかった。

「更木隊長も人が悪い」
「っち」

また逃げられたと、手に残っていた華奈の着物を投げ捨てる。

「じゃぁ、これ届けて来ますね」
「任せましたよ」

「はーい」

剣八が捨てた着物を拾って、荻堂は卯ノ花に頭を下げてから三人が消えた方へ歩いて行った。


「ふー、ここまで来れば大丈夫だろう」

二人を下ろして、華奈は額の汗を拭うと後ろを振り返って剣八が来ていないかを確かめる。

「そ、そんな事より!何か着てください!!」

慌てて華奈をテントの中へ連れて入り、近くにあったシーツをかける。
どうやら運よく伊江村のテントがあるところまで来ていたらしい。

「あ、ありがとうございます!」
「華奈さん、怪我はありませんか?」

「おう!でもちょっと傷が開いたっぽいんだよなぁ」
「えぇ?!」

早速治療に取り掛かる事にした花太郎を見て、伊江村は立ち上がろうとしたがその裾を華奈が掴んで止めた。

「ぁ、すみません」

すぐに手を離したが、花太郎は小さく笑うと華奈に首を傾げてみせる。

「後で、救護テントでちゃんと診ますね」

その方が器具も揃っているからと、伊江村に頭を下げてからテントを出て行った。

「ぁ、の」

手を出したり下げたりを繰り返しながら視線をさ迷わせている華奈の前に座り直して、

「お帰りなさい」

ああ、

「ただ、ただいっ」

抱き着けば、頭に乗る細くて大きな手と、背中に回されて引き寄せてくれるその腕が、

「伊江村さっ」
「はい」

返事をしてくれるその声が、あれば、あなたが、居れば、

「よく無事で」

頭に、額に、濡れている瞼に、口をつけて見つめる。
そうすれば、首に腕を回してきて自分の口を伊江村のそこに当てる華奈。

「いえ、伊江村っ」
「はい」

今度は伊江村から、華奈に口づけを。

触れるだけの、暖かい口づけで華奈の眼からまた涙が流れる。

「だ、だいっ、好き、です」
「ありがとうございます」

愛していると抱きしめて、離れたくないと頭を撫でた。

それから少しの間無言で抱き合っていれば、華奈も落ち着いて来たのか伊江村の腹に顔を埋めて笑顔を見せてきた。

「華奈さん、あんまり動くとシーツが落ちてしまいますよ」

そう言って肩からずり落ちそうになっていたシーツを掴んだ時、

「お、荻堂八席っ、今はそっとしておいて上げて下さいよ!」
「えー、だって心配じゃないですかイロイロと」

そんな話し声が聞こえてきた。

「失礼します、華奈七席の着物を届けに来ましたー」

遠慮もなくテントに入ってきたのは案の定荻堂で、

「・・・この眼鏡ヤロー」
「なっ」

「負傷者になにさらそうとしてやがるんですか変態三席」

言われて、改めて自分の手を見てみる。
華奈を包んでいるシーツを掴んでいる手は、シーツを直しているようにも、更に乱しているようにも見えて、

「ばっ!誤解だ!!」

慌てて手を離して荻堂に向き合った。しかし、

「華奈七席、危ないですから離れて下さい。そして早くこの着物を着てください」

はいと華奈の置き土産を差し出して伊江村から遠ざけようとする。

「だからっ、何を勘違いしているんだお前は!」
「はいはい、言い訳は聞き流して上げますから」

「聞き流すな!第一言い訳じゃない!!」

言い争う二人を見ながら袖を通して、ニヘラと笑うと伊江村に抱き着いて顔を埋め、荻堂を見上げる。

「なんか、戻ってきたって感じます!」

好き好き好き好き、だーい好き。
大切なものが沢山ある事が嬉しくて、あなたといられる事が幸せで、

「・・・ずるいなぁ」
「?」

ため息をついて、荻堂は眼を細めるように笑って華奈に手を伸ばした。

「お疲れ様です、華奈七席」

頭を撫でてそう言えば、

「はい!」

歯を見せて笑ってくる華奈に、笑い返した。
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