ブリーチ(夢)

□カナ30
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ただいまみんなで稽古中。

今日は一護が来ていたため、一角が手合わせをしていた。
今は二人で滝のように汗を流しながら道場の隅で座っている。

「そういや、あいつがいねぇな」
「あいつ?」

「ほら、あのちっこい、華奈」

それを聞いてため息をついた一角は、頭の後ろで手を組んだ。

「あいつなら、隊長と追いかけっこ中だ。また余計なこと言いやがって、こりねぇ奴だぜ」

その答えを聞いて、一護は目を見開いて驚く。

「隊長って、更木とかよっ」

剣八の恐ろしさを知っているだけに、大丈夫なのかとまで言ってきた。
しかし、一角は苦笑するように笑うだけ。

「いつもの事だ、隊長も本気でやり合いに行ってる訳じゃねぇよ」

ここに来て、あまり見た事がない程穏やかに笑う一角に、一護はある事を思い出していた。

『あの子も連れていきたかったんだけれどね』

この世界から消える時、藍染がそう言っていた“あの子”とは、華奈のこと。

「・・・なぁ」
「あ?」

「あいつって、なんで七席なんだ?」
「・・・」

一護の質問に、一角は口を閉じる。
一護は華奈とやり合っているから、気づいているのだろう。
華奈は強い。七席には収まりきらない程、強い。

「あいつは、根本的に俺らと違ぇんだよ」
「?」

十一番隊は、喧嘩上等の輩が集まる隊。
どうせ死ぬなら派手な喧嘩で、それに誇りを持っている。

しかし、華奈は違う。

戯れのような喧嘩はしても、命の取り合いを好んでするようなたまじゃない。
基本的に、性格が優し過ぎるのだ。

「藍染が言ってたんだろ?あいつは強いけどムラがありすぎる」

一角はその場に居なかったから知らないが、藍染が居なくなるその前に華奈について話していったという事は聞いている。
一護にもそう言えば、何か考えるように前を向いて一度頷いた。

『華奈くんは、とても忠誠心の強い子だ。それに比例して力も上がっていく。とても素晴らしい逸材だと目をつけていたのだけれど』

華奈は藍染がいる五番隊ではなく、十一番隊を選んだ。

『犬は、一度主人を決めるとなかなか他の者を見ようとしないから困る』

そう言って、嘲るような胡散臭い笑顔を残していった。

一護と戦った時、華奈は花太郎を助けにきたと言っていた。
しかし、その時の一護は花太郎とも岩鷲とも別れた後。
今はどこにいるか分からないと答えれば、その生死についても問われ、向かってきた。

刀に篭った殺意も、怒りも、打ち返す度に鋭くなっていって、剣八とやり合った時とは違う恐怖が背筋を凍らせた。

「お前と華奈がどんな風にやり合ったかはしらねぇけどよ」

一角はポリポリと頭をかいて真剣な顔をする。

「多分、今あいつとやり合っても、そん時よりも遥かに弱いと思うぜ?」

前に向けていた顔を一角に向ければ、また苦笑したように笑っていた。

「今は、お前は敵じゃねぇし、誰かの仇でもねぇ。あいつは、俺らと違って自分のために喧嘩しねぇんだよ」

強い奴とやり合いたいという気持ちはあるのだろうが、それは一角や剣八が持っているものとは違う。

一角のその言葉に、一護は口元を緩めて笑った。

「そういうのは、何となく分かるな」

何だか、友人のチャドと竜月を足して二で割ったような、それに近いような気がして笑ってしまった。

ガラッと勢いよく開いた道場の扉から転がるように入ってきた華奈。
オタオタと慌てている姿を呆然と見ていると、半開きになっていた扉が吹っ飛んだ。

「華奈!逃げてんじゃねぇよ!!」
「に、逃げますよ!隊長怖いんですよ!!」

立ち上がって走り出すその前に、首の後ろを掴んで持ち上げられた。

「俺と本気でやり合え、簡単だろ?」
「でっ、出来るか!死ぬのが分かってて虎の口に飛び込むようなもんじゃないですか!!」

「離してくださいー!」とジタバタ暴れる姿は、動物を彷彿とさせる何かがあった。
そんなやり取りを見ていれば、華奈と目が合う。

「た、隊長!一護がいますよ!一護にお願いしてください!!」

その言葉に、今まで華奈に向けていた鋭い目を、獲物を確認するように見返してきた。

「て、テメー!俺を売ってんじゃねぇよ!」
「うるせー!こっちは命かかってんだぞ!」

「そんなの俺も同じじゃねぇか!」

言い合う二人に、剣八はニヤリと笑って一護の頭に手をおいた。

「なんだったら、二人まとめてかかって来い、そっちの方が楽しめそうだ」

剣八を見上げながらダラダラ冷や汗を流していく一護。すると、

「必技!すり抜けの術!!」

華奈を掴んでいた剣八の腕が軽くなった。見れば、着物の上だけが残されている。

「いっちー!健闘を祈る!!」

道場の窓枠に足をかけている華奈が振り返りながらグッと親指を立てて来た。

「なっ!」
「おまっ!!」

サラシが巻かれているとはいえ、その姿は上半身裸も同然。驚きすぎて何も言えないみんなと、顔を赤くしている一護。

「華奈ちんすごーい!忍者みたーい!!」

剣八の肩の上ではしゃいでいるやちる。

「ちょっと待て華奈ー!!」
「お前その恰好でどこに行く気だ!!?」

「どこって、四番隊の」
「捕まえろー!!」

言い切る前に一角の声が道場内に響き、今まで呆然とていたみんながいっせいに華奈にとびかかり取り押さえた。



現在、一護と二人で正座させられている華奈。

「テメェは!自分が女なんだって事を少しは自覚しろ!」
「いや、生まれてからずっと女だって分かってますけど」

「分かってたらさっきみたいなことする訳ねぇだろうが!!」

説教されていた。

「何で俺まで説教されてんだよ」

俺は関係ねぇじゃねぇかと呟けば、一護の頭を一角が掴み顔を近付け、

「お前、さっきこいつの事見て顔赤くしただろ」

額に血管をこれでもかと浮かび上がらせながらドスのきいた声をだしてきた。

「し、してねぇよ!」

兄貴分として、かなり許せなかったらしい。

「一護はこんな恰好見慣れてんじゃないのか?」

それに不思議そうに首を傾げる華奈。みんなの視線が集まれば、ほらと言いながら説明を始める。

「現世の女子ってこんな恰好で町を歩いてんじゃん。なんつったっけ、あの服」

えーとと顎に手を当てて眉間にシワを入れる。そんな華奈の言葉を聞いて、んな訳あるかと言おうと口を開くが、はたと気づいた。

「もしかして、キャミソールのことか?」
「それだ!下着みたいだけど、あれって服なんだろ?」

あれがファッションで許されるなら、これもありだろと笑う華奈に、みんなが深いため息をついて肩を落とした。

「俺よりも、もっとこいつの事叱ってやれよ」
「その方がいいみてぇだな」

「なんで?!」

間違ったこと言ってないと主張する。
しかし、それも道場の入口から声がかけられて終わりを迎えた。ちなみに、扉は剣八がけり破ったため今はない。

「あの〜、華奈さんいますか?」

そこにいたのは花太郎。

「あ、ごめんな!こっちまで来させちゃって!」
「いえ、それはだいじょう、って!華奈さん?!なんでそんな恰好してるんですか?!」

着物に袖を通しただけの恰好になっている華奈に花太郎が驚いて声を上げる。それは顔を赤らめるとかではなく、本当に驚いてである。

今日、昼食を一緒にとると約束していたのに時間になっても華奈がやって来ないので、心配して見に来たのだ。

「いや、いろいろあってさ」

話せば、花太郎が首を横に振りながら「それは違いますよ!」と言ってきた。

「そうなの?」
「それに、あんな薄着だったら何かと誤解されそうですし、」

「華奈さんにはあんまり着てほしくないです」と顔を俯かせる花太郎に、ガシッと抱き着いて拳に力を入れる。

「わかった!花太郎がそう言うならもうしない!!」
「・・・あいつって、花太郎の彼女なのか?」

「・・・いや」

違う、はずだ。
うん。
本人たちは違うと言っている。

しかし、華奈が誰よりも花太郎の言うことを聞くのは本当のことだ。

「必技、すり抜けの術はもうしない!」
「当たり前だ!!」

兄貴分、十一番隊の苦労はまだまだ続く。
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