3月のライオン(夢)
□藤本2
2ページ/2ページ
そいつは目立たない奴だった。
「あ、教科忘れちゃった」
「借りてきたら?」
「そうする」
和子と廊下から聞こえてくる女子の声。少しして、教科書を片手に戻ってきた。
「やっぱり和子って頼りになるう!」
ノートまで貸してくれたと嬉しそうに開き、友人だろう数人で写し出す。
授業後、あの女子が教科書とノートを持って立ち上がると教室の扉が開いた。
「あ、丁度返しに行こうと思ってた所だったよ」
ありがとうと礼を言われれば、
「どういたしまして」
笑って差し出された物を受け取る。
「うちのクラスに用事?」
「うん。さっき先生に頼まれて、次の体育は外に集まってって」
みんなに伝えてくれる?と首を傾げ、出て行った。
そいつは目立たない奴だったが、決して影が薄い訳ではなかった。
かゆい所に手が届く。こいつになら任せられる。
教師や友人が頼るのは決まってそいつだった。