Another world -僕らの未来と-

□南木雄一と黒マント
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腕のみ壁抜けしてしまった、あの間抜けな離脱体験から丁度一週間が過ぎた。コミュニティーに書き込んだ数学教師Kからの書き込みもなく、志織との関係も発展することがなく、クラスメートとの関係も変わることがなかった雄一は、身体的にも精神的にも疲れきって、家に帰るなりすぐベッドに倒れ込んで眠りについた。
そこで雄一は、金縛りに遭った。幻聴が聞こえる。クラスメートたちの笑い声、こっちにくるなという声。ベッドよりも地面よりも下に沈んでいく感覚もして、それから逃げようと必死に体を動かした雄一は、また、体外離脱をしてしまった。

  南木雄一と黒マント

「またぼく離脱したんだ、」

妙に透けている自分の手のひらを見つめて雄一は言った。離脱しても壁抜けできないしなあ、とこの前のガラス戸をつついた。ゲルのような感触がする。なんだこれ、気持ち悪いなあ。と、雄一はガラス戸を背にして座った。ガラス戸にもたれ掛かった瞬間、

「うわあぁぁっ!?」

ガラス戸が千切れ……いや、ガラス戸に雄一の形をした穴が開き、雄一はベランダに倒れ込んだ。今度はちゃんと、全身が壁抜けしている。そういう問題ではないが。

「ははっ、なーにやってんだよ、お前」

乾いた笑い声が聞こえて、腰をさする雄一の隣に真っ黒な翼を生やした黒マントの男が降り立った。それは目が見えないように深くフードを被り、白い紙マスクをしていた。そう、見た目は完璧な不審者。そんな不審者に笑われる雄一。雄一は少しだけ気分が悪くなって、その黒マントを睨んだ。

「なんなんだよ。ぼくに、何か用かよ」

いつもより荒い口調になる雄一。雄一は、わかりやすい人間である。すぐに感情が態度に出てしまうような、そんな人間だ。

「何か用かと言われても特に用はないんだけどな」

そう言った黒マントは、その背中に生やした立派な翼で空に浮き上がった。月明かりがそれを照らし、雄一にはそれがひどく美しいものに見えた。

「なんか離脱始めたばっかりって感じの気配感じたから来たんだ。ただ、そんだけの話」

黒マントは、雄一の手を取って立ち上がらせ、そして紙マスク越しに手のひらに口づけた。空に浮く黒マントを見て、雄一は何を思うのか――。

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