Another world -僕らの未来と-

□南木雄一と体外離脱
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それからというもの、雄一の脳内の大半を志織が占めるようになっていった。ふとした時にいつも志織のことを考えてしまう自分自身を、変だとも思ったけどそのことは変わりはしなかった。雄一は彼女を、墓場系女子さん、と呼ぶのだが、本当は「しおりちゃん」……と、呼んでみたいと思っていた。
勿論、たとえインターネットでも、ひとを好きになったからといって雄一の日常が大きく変わることはなく、いつものようにクラスメートたちに馬鹿にされ殴られ蹴られ……という日常は終わることなく続いた。
もう、学校やめちゃおうか……。そんな事まで考えてしまうようになった雄一は、とある怪奇現象を知る。

  南木雄一と体外離脱

「体外……離脱……?」

偶然、自らのお気に入りのサークルで見たスレッドの内容、それが体外離脱に関するものだった。そのスレッドについたレス数は少なく、ほとんどがスレッドを立てた人物、「数学教師K」のものであったが、その数少ないレスには体外離脱についての情報がたくさんあり、興味を持った雄一はそのレスを何度も何度も読んだ。

数学教師K   05/02 19:35

簡単に言えば、リアルだけどリアルじゃない世界。幽体離脱とも言うらしいけどオカルト的なものじゃありませーん。やりすぎたら次の日疲れるけど、自由度ハンパないゲームって感じ?やりこめばやりこむほど楽しくなってくるから。基本なんでもできるし。
まあそんな俺も離脱者なワケで。レベル上がったらイメージできるんなら魔法とか使えちゃうよ。離脱者VS離脱者の魔法対戦とかも面白いねー
とりあえず「体外離脱」でネット検索したらまとめとかあるし、興味があるなら見てみ。

「なんでもできる……?」

雄一はその言葉をとても魅力的だと感じた。思わず身震いしてしまうほどに。当然、雄一は体外離脱をネット検索し、まとめをすみからすみまで読み尽くした。……その夜、雄一は体外離脱をする。体外離脱を知った一日目での離脱成功は、ほかの離脱を試みる者たちにとっては、羨ましいと言えるものである。そして、雄一自身の離脱に対する才能にも、羨ましいと言えるものがあった。

「ぼく、本当に抜けてるんだ……、体から……」

少し透けた感じのある両手を見つめた雄一は、まず家から出ることに挑戦した。なんでもできるという数学教師Kの書き込みを信じきった雄一は、壁を抜けて空を飛んでみようと思い、両手をガラス戸につけてガラス戸をぐい、と押した。

ずぼっ。なんていうなんともマヌケな音を聞いた雄一の腕は、確かにガラス戸を貫通していた。今の雄一は、肘からむこうが家の外にある。同じようにして体全体を外に出そうとした雄一。だが、肘から向こうがガラス戸を貫通しているまま動くことができない。結局、その状態のまま初めての離脱は終わった。

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