春の訪れ
□]:強がりと胸の鼓動
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酒を飲み始めて半時間ほど経った頃、美奈ちゃんに異変が起きた。
俺が栗を食べるのを見ていきなり笑い出したのだ。
それも女子高生がするような何がそんなに面白いのか聞きたくなるような笑いっぷり。
『アハハハハハハ。アハハハハハハハハ』
部屋に響く笑い声を聞いていて、ちゃんと息継ぎをしているのか心配になるほどだった。
(酔ってるん……やな。)
光晴は一人納得し、美奈子がどのくらいお酒を飲んだのかグラスと梅酒の瓶を見た。
(え゛?)
光晴は目を見開いた。
なんと梅酒サイダーはグラスの半分しかなくなっておらず、酒を足した形跡もないのだ。
酒に氷を入れていたため多少水で嵩が増しているだろうが、サイダーで割った梅酒をグラス半分飲んだだけで、この酔い様だ。
(あれ?乾杯のあとに酒強いて言うてたよな……)
光晴はまだはっきりとしている頭で記憶を引っ張りだした。
そして溜め息を1つ。
「嘘か…。」
光晴は絶えることなく笑い続ける美奈子の姿を見ながら呟いた。
しばらくすると顔は相変わらずほんのり赤いが、美奈ちゃんは落ち着いたようで急に静かになった。
美奈子のグラスが空になっていたのには気づいていたが光晴は彼女が再び壊れるのを避けるため、改めて酒を注ぐことはしなかった。
「落ち着いたか?」
尋ねると美奈ちゃんは神妙な顔でうなずいた。
すると美奈ちゃんはいきなり立ち上がってソファの方へ行き
『うぅぅっ…』
と嗚咽をこらえながら泣き出した。
光晴はまだ酔ってるのか疑問に思いながら椅子から立ち上がり、美奈子の隣に腰かけた。
「大丈夫か?」
酒はもう飲まん方がエエな、と考えながら背中を擦ると美奈ちゃんは顔を上げた。
その顔には涙など一滴も流れていなかった。
(へ?嘘泣き?)
光晴が目を疑っていると唇に柔らかいものが押し付けられた。