話
□運命×約束×恋心
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もしかしたら誰かはこれを運命の出会い(又は再会)と呼ぶのかもしれない。
「あ」
「あ」
立海大附属中学テニス部、仁王雅治とばったり出会ったのは全国大会も終わり帰りの新幹線の待ち合わせまで残り2時間の自由時間だった。メンバーと分かれ一人ふらつきながら辿り着いたのはどこにでもあるテニスコート。
飲み物でも買おうかと自販機を探してみるとちょうど彼がいた。みるみる表情を曇らせる彼を後ろから呼んでいるのは、千歳が無許可で技を使った丸井ブン太だ。
「まずい」
「え?」
不意に手首を掴まれ、そのまま仁王は丸井から逃げるように千歳を連れて走り出した。何が起きているかわからなかったが、まるで自分の好きな映画のワンシーンのようで心が弾んだ。
彼は自分をどこに連れて行ってくれるのだろう。小さい頃の自分に戻ったような気分だった。
しばらくするとごく普通の小さな公園を見つけた。二人でベンチに腰を下ろし、息を整える。
はぁーと深い溜め息を吐く仁王にやっと一言声を掛ける。
「えーっと、仁王くんやね?」
「…………」
呼吸を整えるのに必死な仁王がギロリと睨む。暑いのが苦手なのだからしょうがないと思い、確か入り口に自販機があったはずだからと立ち上がる。
(……あれ? 仁王は暑いの苦手なのか?)
当然のように今そう思った。まぁ、このくたばり方を見て夏が得意そうには到底見えないが。
「仁王くんはポカリでよかね?」
「あー……待ちんしゃい」
そういえば出会ったのは自販機の前だった。あの時にはもう買っていたのかもしれない。
首を傾げ、大人しく待つと困ったように口を開いた。
「その“仁王くん”て言うのやめんしゃい。むず痒くなる」
「そげね? じゃあ仁王」
「いや、だから…………わざとか?」
「え?」
………………
「まさか俺のこと忘れて……」
「えっ! いや、まさか! あの詐欺師を忘れるわけなかよ?」
「…………」
「違っ……実は柳生とか?」
「…………」
「…………あー」
そうなんだろうな、とは思っていた。
あの時手を引かれた瞬間。
「…………まさくん」
今になって呼ぶのは少し照れるかな?
仁王は「プリ」なんてよくわからない照れ隠しをする。
「ちぃ久しぶりだな」
自分は少しばかり“ちぃ”と呼ばれるのに抵抗あるのだが。
「やっぱりまさくんだったと?」
「プリ」
「まさくんはそげんこつ言わんよ」
と言いつつまさくんとの思い出で覚えているのは“約束をした”ことだけで、内容もどんな子かも覚えていない。
――いや、あと一つ覚えてる。
「お互い随分変わったのう」
「そうたいね」
「一番変わったのは……」
「……? 変わったのは?」
言い淀む仁王を促す。
眉を寄せ、文句を吐き捨てるように言った。
「お前の身長だ」
「あー……」
確かに、仁王が熊本に住んでいたのは彼等が小学校低学年の時。その頃は千歳も前から数えたが早いような位置にいた。
それが今では中学生と言っても信じてもらえるか危うい程に成長している。もしまだ成長し続けているのなら仁王は辛酸を嘗めるしかない。
「昔はまさくんの方がおっきかったとに」
「これから追いつくぜよ」
「ふふふ、頑張りなっせ」
(こいつ信じとらんな)
自分自身無理だとは思っているがこうも軽く流されてしまっては情けない。