□春は出会いの季節です
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考えなしに2組に来てしまったためキョロキョロと教室を覗いても忍足の姿はなかった。知り合いでもいればこんなに悩む必要もないが、千歳はこの春転校してきたばかり。クラスメイト以外に仲の良い子はいなかった。
適当に2組の子に頼もうか悩んでいると、意外な人から声を掛けられた。

「あれ、千歳さんやろ? どないしたん?」
「えっ? あ、聖書の人……」
「白石蔵ノ介や、よろしゅうな」
「あ、と……千歳千里、です。よろしく……」

手を差し出されたのでそのまま握手をする。そういえば金太郎が「白石の左腕は毒手やねん!」と言っていた。信じてなんかいないが“毒手”のタネとはなんだろう。学ランの上からでは全く分かりそうになかった。
白石は千歳の手に持っているものを見つけるとニヤリと口角を上げた。

「それ、謙也のやろ?」
「え、あ……」
「謙也のやつ「学ラン捨てたー」なんて言うてたけど、紳士やな?」
「や、その、違」

もしかしてめちゃくちゃ面倒な人に見付かったのでは?
テニス部のメンバーだから大丈夫だろうと思ったのは間違いだった。さっさとクラスの人に頼んで教室に戻ればよかった。

(つーか、「学ラン捨てた」て! 嘘下手すぎばい……!)

「謙也ならトイレやからすぐ戻る思うけど、預かろか?」
「あ、うん。……その、この学ランはほんなこつ捨てられとってたまたま、」
「あ、謙也」
「えっ」

スピードスターは手なんか瞬間乾くっちゅー話や! と意味の解らないことを話しながら教室に戻って来た。

「なんやハンカチどないしたん?」
「今日忘れてもうて」
「しゃあないな――」
「ならうちの貸したるたい」

ポケットから可愛いトトロ柄のハンカチを取り出すと「はいよ」と渡す。

「あれ? 千歳さんがおる」
「これのお礼――あ、いや、ほら忘れもんばい」
「えっ? あ! ほんまや、堪忍なぁ!」

終始ニヤニヤする白石のせいで居心地が悪い。お礼を言えずまごついていたら予鈴が鳴ってしまった。ぞろぞろと外で遊んでいた生徒が帰ってくる。

「……うち、教室戻るけん」
「あ、ハンカチ洗って返すわ」
「よかよ、こっちこそありがとう」
「お、おん」
「白石くんもすまんね」
「ええて、何もしとらんし」

じゃあ、と去ろうとすると忍足に「またな!」と声を掛けられてしまった。あはは、なんて渇いた笑みだけ残し、千歳は1組に逃げるように戻った。





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