□擬似体験
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「……夢を見るんや。最近」
「夢? 悪夢?」
「悪夢……やな」
「どんな夢? 覚えとる?」

答えるべきだろうか。どんな反応が返ってくるのだろう。何バカなことを言っているのだと笑ってくれるだろうか。


「お前を殺す夢や」


は、と息を飲み目を丸くする千歳。至極真面目に言うように努めたから、彼もふざけてるわけじゃないとわかってくれているのだろう。

「白石は、予知夢とか視る力あっと?」
「ないわアホ」
「じゃあ俺んこつ好かんと?」
「まさか!」

声を大にして言うと千歳は肩をビクッと震わせた。怒ったわけじゃないが、やはりそこは完全に否定したい。
俺は夢について簡単に説明することにした。



「お前が苦しそうにしとって、俺に殺してと縋ってくるんや」
「それで殺すと? なにで?」
「今日は首をそのまま絞めた」
「“今日は”?」
「最初の流れは同じで、殺し方だけ毎回変わるんや」

毒薬を飲ませたこともあった。
水に首を突っ込ませたこともあった。
ナイフで喉元を切ってやったこともあった。
ここ最近そんな夢ばかりみる。

「グロかー」
「そうやで……」
「悪趣味な夢たい」
「全くや」

千歳がクスクスと控えめに笑いだした。たかが夢だと千歳が言う。俺はその言葉が欲しかったのかもしれない。
やっぱり苦しんでいるより楽しそうに笑っている姿の方がいい。


「――なぁ、夢ん時みたいに首絞めてよ」


ぞわり、脊髄を何かが駈けたようだった。千歳にとってただの冗談なのかもしれない。しかし俺を試すような笑みに誘われ、静かにそのすらりと伸びた首に手を掛けた。

「これから俺はどげんしたらよか?」
「……別に。ただずっと笑っとった」
「わかった」

何がわかったんだ。聞くのは野暮だから止めておくが、俺はこれからどうすれば正解だろう。
とりあえず夢を思い起こしながら、千歳の体を押し倒す。夢では体重を掛けながら手に力を込めていった。じわり。力を抜いたままの掌が、感触を思い出して変な汗をかく。

「白石、今たいぎゃドキドキしよる」
「仮にも殺そうとしてるんやからな」
「今日二回目なのに」
「そう言うなや」

少し力を込めてみる。千歳は、ん、と小さく息を洩らし顔をしかめた。この反応はやはりリアルだなぁと妙に感心した。


――俺が本気を出せば、千歳は死ぬんや。


不思議と冷静になっていく自分。苦しそうにする千歳。


「なぁ白石」
「……なんや」
「夢ってね、願望の表れみたいにいうの知っとう?」
「そうなん?」
「うん」

何が言いたいんだ?


「だけんね、これって。俺がお前に殺されたいのか、お前が俺を殺したいのか。どっちなんだろうなぁって」


ああ、そうか。
だからお前は苦しそうにしながらも笑っているのか。



「両方やろな」


首への力を緩め、唇に触れるだけのキスを一つ。千歳が俺の手に重ねるように触れるから、そのまま窒息するようなキスをした。



擬似殺人体験
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