□初デート
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「じゃあ、明日1時でええか?」
「ん。なら俺は帰るけん」

わたわたと慌ただしく部室を出ていく千歳を見送りながら、何か用事があったのかと白石は呑気なことを考えていた。

「わかりやすっ」
「え?」
「だから千歳のこと。デートなんやろ?」
「……デート?」

その言葉にキョトンとする白石。
冷やかす気満々でニヤつきながら近付いたユウジは肩透かしだった。

「なんでそこで不思議そうやねん! どう見てもそうやろ!」
「……えーっと?」
「まぁまぁユウくん」

そう宥める小春もくるりとこちらに向き直る。

「でもそうね、折角千歳くんがデートに誘ってくれたんやから無下にしちゃあかんよ?」
「だからデートって……」

ただ映画を観ようと誘われただけだ。確かに付き合ってはいるけれど、付き合う前から映画に行くことはよくあったし――

「ダメよ、ここで手ぇ抜くような男はすぐ捨てられるんやから」
「え、えー……?」

小春の気迫に圧倒され、つい頷いてしまっていた。

しかし思えばカップルがするようなイベントは何もしていない。
学校帰りにアイスを食べたり、休日に部活用具が足りなくなって買いに行く……等、色気を感じるようなものが全くなかった。

そういうものを求めて告白したわけではないし、一緒にいられたらそれでよかった。――けど。

(なんや、今更緊張してきた)

これは本当にデートなのか?
いつものように千歳は軽いノリで言ったのを、俺だけが気張っていて引かれるなんてことはないか?

(いっそ出オチ……)

デートだとかこの際考えないで、笑わせたもん勝ちや、みたいな(混乱)

「ハッ、コスプレか……?」
「何閃いた! みたいな顔してんねん! 絶対やめろ、絶対やぞ!」

それはむしろフリだよな、と思いつつ、白石は明日の待ち合わせに頭を抱えるのだった。





翌日。
悩みに悩んで夜一睡もできなかった。眠りについたのは朝方で、気付いたら昼の12時を回っていたのを見た時はゾッとした。
多分俺は二度と遅刻できないだろう。

「お、おはようさん」
「ん、おはよう」

待ち合わせに遅れること10分。
まさか千歳がもう来ているなんて思わなかった。普段なら30分は平気で遅刻して来るというのに、よりによってこんな日に。

(いや、こんな日だから……か?)

「すまん、待ったか?」
「ううん、俺も今来たところたい」

…………デ、デートっぽい!
心なしか普段より千歳もオシャレしているように見える。それに比べて俺は散々服装に迷って結局“ちょっとオシャレする”というへたれで終わった。
これでは聖書の名が泣く。

「……今日も白石はかっこよかね!」
「え? どないしたん、急に」
「え? だってこ……」
「こ?」
「な、なんでんなか!」

何か照れている千歳を見るとこちらも緊張する。しかしそわそわ落ち着かない千歳は少し可愛い。

やはりこれはデートのようだ。
今悟った。

ここは聖書の二つ名を持つ俺がパーフェクトなデートにしなければ……!



「どうする? 映画観るんやったよな?」
「うん。次1時半からだけん、間に合うばい」
「じゃあ行こか」

気合い入れたものの、案外普通じゃないか。デートと言えど所詮男同士。
気張らず楽しめたらそれでいい――

「痛っ」
「大丈夫か?」
「や、頭ぶつけて……」
「……」


……本当に大丈夫か?




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