□貴方のいない日に見た星
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千歳と連絡が取れなくなって5日になる。
いつものことだろ、と皆が言う。
それは思うし、千歳は暢気にふらふらしているのだろう。けれど彼氏に黙って消えてそのまま連絡ないのはどうなんだ?

心配だってしている。
しかし何より、

「千歳は寂しないんか……」

自分は会えないというだけで、声を聞けないというだけで寂しいのに。俺のことを思い出しもしないのだろうか。

「あらあらブルー入っとるわねぇ、謙也くん」
「それもいつものことやけどな」
「千歳はんも連絡したったらよろしいのに……」

その前に学校休んで何処行っとんねん! て話だ。大分メンバーも千歳に毒されているらしい。
駿足自慢のスピードスターは、日に日に動きのキレが悪くなっていた。






夕食も終え早々と入浴を済ませて部屋に戻ると、着信を示すライトが点滅していた。
誰からかと携帯を開くと予想外の人物からで。直ぐさまリダイアルした。

「も、もしもし! 千歳!?」
「……あ、こんばんはぁ謙也くん」
「こんばんはーやないやろ! 今どこにおんねん!」

耳元でふわふわした彼女の声がする。5日ぶりの千歳の声。

「すまんばいね。心配掛けたみたいで」
「当たり前やん……」
「今ね、うち北海道におっと」

ほっかい……どー……?

「はあああ?! 北海道!?」

いつもより長く音信不通だとは思っていたが、まさかそんな北まで行っていたとは。

「ふふ、あんね? ラベンダーがね凄く綺麗かよ。お土産も買ったから楽しみに――」
「……なんでずっと連絡せぇへんかったんや」

楽しそうな弾む声に虚しくなる。
こっちはずっと心配で、寂しくて辛かったのに。

「あー……充電が切れちゃって」
「……ええよ、いつものことやし」

「怒っとる?」

怒っているわけではないんだ。悲しいだけなんだ。
やっと両思いになれたと思ったのに、彼女は流れる雲のようでまだ掴めずにいるのだと実感させられる。


「……こっちはね、星がたいぎゃ綺麗に見えっと」
「…………」
「うちね、今まで寂しいち思ったことなかよ」

突然ぽつりぽつりと語りかける千歳に耳をすませる。

「うちと謙也くんは赤い糸で繋がっとるけん、大丈夫なんだって信じとう」

「千歳……」

好きだという気持ちに偽りはなくて。好きだから、好かれていると自信があったから。
“謙也くん”という帰る場所があるから怖くなかった。

「でも気付いちゃったと」
「え?」

「ラベンダーの香りを良い匂いだねって笑う謙也くんがいない、美味しいもの食べて幸せそうな謙也くんがいない、」

千歳の声は震えていた。

「星を見て手を握ってくれる謙也くんがおらんの……」

「千歳」


「寂しいよ、謙也くん」

初めて寂しいという感情に触れた彼女は、電話の向こうで泣いているようだった。本来なら今すぐ抱きしめたいのに、日本の北端にいられては流石のスピードスターもお手上げである。

それに、黙って消えたことを簡単に許すつもりもなかった。

「俺はずっと寂しかってんけど」
「ご、ごめん」
「心配だってしとった」
「ううう、ごめ、」
「千歳のせいで今週の部活全く身ぃ入らんかったわ」
「だ、だからごめんって……っ」

「ま、だから帰って来たらぎょうさん怒ってぎょうさん抱きしめたるから覚悟しいや?」

俺が寂しいって思う時、千歳も寂しいって思ってることがわかったから。これくらいで許してやろう。

「うん……うん!」


だから帰って来たら言おう。
これからはいろいろなものを二人で感じていこうって、二人の方がずっと楽しいって。




END
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