□お勉強会
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俺達は真っ当な受験生だ。
千歳に勉強教えてと珍しいお願いをされたから部屋に招いたのに、彼は落ち着かない様子でキョロキョロ室内を見渡す。


「ねぇ謙也くん」
「んー?」


こうなることくらい容易に想像ついたし自分の勉強を進めながら生返事だけする。


「あげる」
「……ありがとう」


コトンと、テーブルに置かれた飴。うっかりありがとうなんて言ったが、なんで今このタイミングなんだ。
柔らかな笑みを浮かべるとふらりと立ち上がりなかなか座る様子もない。本棚から本を取っては捲ったり戻したり落ち着かない千歳を不審に思い、振り返ろうとしたら「いけんいけん! 勉強しなっせ!」なんてびっくりな台詞が飛んできた。いやいやいや、今日の勉強会貴方のためだからね? なんで他人事なの? ツッコミ待ちなの?


「絶対振り向いたらいけんよ」
「お、おん……」


すっかり混乱した俺は素直に従うことにした。何かする気なのだろうか。すると突然、

ぎゅう

と。背中から暖かい感触が。俺の腹の前に回された指がきゅうと服を掴んでいる。


「ち、ちちち千歳?」
「な、なんね」


いつもと違った上ずった声に、こっちの緊張もいっぱいいっぱいになる。


「な、何かあっ、たんかっ」
「……何かないとダメですか」
「だ、ダメじゃないです!」


でも生殺しというか、……生殺しです。こんな可愛い千歳を目の前にして(真後ろだけど)じっとしとくだけなんて、ああ焦れったい!



「たまには甘えてみようと思いました」



なんで敬語なんやねん、とか。
ぎゅうと力を込める仕草とか。
千歳さん、俺のツボ押さえまくりやで。


「……千歳」
「わ、わわいけんこっち向いたら!」
「いや、その……千歳が甘えてくれるんも幸せなんやけど……」


できれば、俺もお前を抱き締めたいんや。

なんて気持ち低めに声を出す。千歳はこれが苦手らしいから、ぴくりと反応し、動きが止まる。
すると強く抱きついていた腕が緩まった。OKの合図と受け取り、少しテーブルから抜け出し振り返ると、すぐさまばっと俺を抱きしめる千歳。俺の心臓はもう止まる勢いです。愛しくて堪りません。


「ん、」
「ん?」

「…………。抱き締めてくれるんじゃなかとや……」


あああもう何この子。超可愛い。
ぎゅうと、そりゃあ壊れてしまいそうなほどの力と愛を込めて抱き締めた。

「えへへ、最近勉強ばっかで謙也くん構ってくれんけんね」
「…………アホやなぁ千歳は」


いちいち可愛い恋人が、たまーに見せる甘えたな一面。
もう勉強なんか手につくはずもなく、勉強会はお開きとなってしまった。



END
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