□擬似体験
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最近毎日のようにみる夢がある。

千歳が右目を抑え苦しみもがきながら、焦点の合わない左目で俺を見つめる。
過呼吸を起こしているのか、声にならない声で俺に縋ってくるのを「大丈夫か」なんて気休めの言葉をかけることしかできないでいる。そして彼は荒い呼吸のまま耳元で一生懸命伝えるのだ。

“ ねえ 俺を殺して ”

俺には出来ないと首を横に振るとすまんね、お前にしか頼めんとよ、なんて。ああ、いつもの彼なのだと思うと同時に決心が着いた。ゆっくりと首に手を掛け力を込めてゆく。自分の手が驚くほど汗ばんでいた。コリコリとした聞き慣れない鈍い音を発てる喉が一言擦れ擦れに言った。笑顔だった。

――ありがとう。





「――今日は絞殺、か……」

「どうかしたと?」
「わっ……千歳……」

部活中、ぼんやりと今日みた夢について考えていた。声に出してしまったようで、心配そうな千歳の声で我に返った。「らしくなかね?」といつもの柔らかな調子に、何故か無性に安心してしまう。

「なんて言ったと?」
「別になんでもないで」
「俺に言えんこと?」
「ちゃうけど、知らない方がええこと」
「……。そっか」

いきなりのトーンダウン。ふーんとか呟きながら俺から視線を外し、落ち着かない様子できょろきょろとしている。
……ああしまった。絶対何か勘違いしている。
千歳から強く言及されることはないが、それは気にしていないわけではない。仕方なしに二人でコートを抜け出し、部室に戻ることにした。





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