□貴方が一番大嫌い
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第2話



相変わらず重役出勤な千歳を優しく受け入れるメンバーとは裏腹に、これも相変わらずつっけんどんな白石の説教タイムが始まった。
本来ネチネチした男ではないはずだが対千歳ではワケが違う。いつも無駄が多いだとか、イイ度胸してんなとか、部活に関係ないことを言い始める。

千歳もよく大人しく聞いていられるもんだと覗くと、そんなワケなかった。普段から話半分な千歳が真面目に聞くはずがないのだ。

チッ
と向かいのミスター聖書に届く舌打ちがなる。

「だごうじゃあ」

吐き捨てるような方言の意味はわからないが、白石を煽るには十分だった。

「千歳……無理に部活来ることないんやで」
「別に白石に会いに来とるわけじゃなかし」
「当たり前や気色悪い!」
「桔平ならそんなこと言わない!」
「桔平って誰やねん!」

常に臨戦体制が整っている二人を止めるのにメンバーも辟易していた。
最近は皆もスルーし出しているし、石田と小石川がいる限りは問題ないが二人がいない状態を思うとゾッとする。何より財前が「よし、殴り合いましょ」と囃し立てるから危ない。

「ただ楽しく部活したいだけやねんけどなぁ……」

謙也の呟きに一層大きく頷いたのは小石川だった。











天気の良い麗らかな昼。
保健委員の仕事を片付け、ぶらぶらしていると、同級生のヤツらに声を掛けられた。

「お、白石やん」
「そや、俺ら聞きたいことあってん」
「ん? なんや?」
「テニス部に千歳っておるやろ?」

分かりやすく顔を歪める白石にテニス部の惨状を知らない二人もただ事ではない何かを感じた。

「もしかして喧嘩中、とか?」
「いやアイツのこと嫌いやねん。で?」

ヒィ! と二人は内心叫んだ。今のはあっさりカミングアウトできる内容だったのか。

「あ、えーっと……千歳な、元ヤンて噂あんねん」
「それってほんまなん?」
「はぁ? そんなん知らんわ」

しかしたっぱは無駄にあるものの、あんなゆるゆる電波が好き好んで喧嘩なんかするのか。

「あいつ学校も部活もようサボるんやろ? 女とよう遊んどるって話や」
「熊本ではめっちゃ有名やって」
「そりゃ有名やろなぁ」

(テニスで、やけど)
しかし何となく噂の成り立ちも想像ついた。大方サボり魔と九州二翼の噂に尾鰭がついたのだろう。

「そんなん自分らで確かめたらええやん」
「えー」
「白石ぃー」
「俺は興味ないし……あ、」
「どないしたん?」
「いや、」

(あれ、千歳やん)
曲がり角の所でこそこそ動く千歳がいた。隠れてるつもりだろうが、あんな高い位置に頭があるのはあいつだけだ。
自然と口角が上がる。

「まぁ、絡まれたら絡まれただけ喧嘩しそうやな。あんな無駄にでかいあほに喧嘩売るヤツおるか知らんけど」
「あー……せやな、あいつむっちゃでかいもんな」
「俺初めて見た時中学生って信じられんかったわ」

二人は妙に納得して去って行った。
千歳がどう思われようが関係ないが、白石の知る千歳は元ヤンじゃないし、散歩に出掛けて帰って来ないようなただのあほだ。
するとカラン、と彼の下駄がなった。

「俺のおらんところで悪口ね」
「アホ、丸見えや」
「アホちゃうで」
「……喧嘩売っとる?」

「俺は喧嘩売らんよ」

誰に、いや何に言っているのか。


「絡んで来るんも白石だけたい」


愉快そうに千歳が笑う。出会って以来の笑顔だった。
何度口に出して嫌いと告げても、この微笑みはきっと嫌いになれない。

「……フン」


ふらりと当たり前のように学校を出る千歳を怒鳴る気にもならず、白石は振り返ることなく教室に戻った。



続く!
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