□春は出会いの季節です
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「千歳さんとはいつ仲良うなったん?」
「はぁ?」

白石が面白そうに尋ねて来るものだから、謙也は怪訝そうに返す。普段なら先生が来るまでの時間は「勉強せんと時間の無駄や!」と予習復習に励んでいるのに。
でもよく考えてみると謙也は千歳と会話したのはさっきが初めてだ。白石はそれを仲が良いと思えたのだろうか。

……それはちょっと嬉しい。

「別に仲良くはないで、さっき初めて話したし」
「えっほんまなん?」
「おん、白石こそ話し込んどったみたいやんか」
「それはお前……」

学ランを返しに来た千歳とばったり会ったに過ぎない。そう説明してからふと一つ疑問が生まれる。

「じゃあどうやってその学ラン貸したん?」
「え?」
「まさかほんまに捨てたんか?」


食堂でテニス部数人で談笑しながら昼食を取っていた。食事を終わらせたら天気も良いし屋上にでも行ってみようか、と話していたら早々に食べ終えた謙也が「なら先に行っとるわ」と駆け足で去っていくと、
九州の二翼と言わ占めた千歳千里が屋上で寝そべっていた。

「それは寝とる千と――」


…………あれ?
千歳は何故この学ランが謙也のものだとわかったのか。所有者がわかるような何かを持っていただろうか? ポケットを探ってみると昨日寄り道したときのタコ焼き屋のレシートと、野菜の形をした消しゴム一つだった。

「…………」
「どないしたん?」
「なんで千歳さんがこれが俺の学ランかわかったのかわからん」
「……はぁ?」
「せやから――」

屋上であったことを説明しようと口を開くと、ちょうど教室の前の扉が開いた。「いやぁ堪忍なぁ先生が遅刻してもうて!」と相変わらず調子の良い教師は、生徒の弄りを交わしながら挨拶なしにそのまま授業を開始した。
仕方なく後ろを向いていた身体を戻す。

その後授業は全く頭に残らなかった。

(もしかして千歳さん、あん時起きとったんじゃ……)

もしそうだとすれば声掛けていたのも聞かれていたことになる。特別変なことは言ってないはずだが、言い表せない恥ずかしさがあった。
なぜ寝たふりなんかしたのか。

(……俺、嫌われてるんちゃうん?!)

だったら非常に気まずい。1年の頃から憧れていた九州二翼だというのに、仲良くなる前から嫌われているなんてショックすぎる。

悶々と考えているととうに授業は終わっていた。








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