拾万打記念
□act,2
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半年ほど前にやって来た、今の家庭教師は、ダサい丸眼鏡に長めの漆黒のもさい髪型で、胡散臭い関西弁で、でもまぁ、そこそこイケメンだと思う。
お父様には、到底及ばないけど。
今までの人達とは違う、ちょっと変わったやつ。
大概の人は、僕に気を遣ってばかりで、勉強以外の話なんかすることはなかった。
でもあいつは、忍足侑士は、まるで、友達みたいな。
今までで一番長く、僕のそばにいた、家庭教師。
「景吾はまた100点かよ」
「当たり前だろ、そういう亮は何点だったんだよ」
「う…」
「ん?…ははっ、ばーか」
「うっせーよ!」
まぁ、そいつのおかげとは言わないけど。
だって元から僕にわからない問題なんかないんだから。
でも、あいつのおかげで、少し家に帰るのが楽しくなった。
ミカエルがいつもそばにいてくれるけど、家に帰っても、僕とふざけてお話しをしてくれる人は、いなかったから。
あぁでも、そんなあいつも今日はお役御免。
だって今日は僕の誕生日。
お父様とお母様が、お仕事から帰ってきてくれる。
僕のために、家族とミカエル達と誕生日パーティーをしてくれる。
「あれ景吾、もう帰るの?」
「あぁ…何か用か、萩之介?」
「いや、大したことじゃないけど…、はい、お誕生日おめでとう」
「は?何、お前今日誕生日?!」
「まぁ黙ってなよ、亮」
「う…」
萩之介が背中から出したものは、両腕でも大きすぎるほどのバラの花束だった。
赤い花束はとてもきれいで、ふわりと香った香りはとても良いものだった。
聞けば、萩之介の家で育てていたものらしい。
僕に一番お似合いの花を選んだと言っていた。
「それから、これ」
「!…青いバラ…」
「そう、景吾の瞳の色と同じ青いバラ。花言葉は、神の祝福」
「神の祝福…」
「今日一日が、景吾にとって素晴らしいものでありますように」
赤い中にすっと差し込まれた青いバラ。
赤にはない、また違う美しさ。
亮は、そんな僕たちの横で慌てたようにランドセルを漁っていて、出てきたのは結局小さなチロルチョコだった。
「まぁ亮だしな、これで許してやるよ」
「んだとー!」
思わずそんなことを言ってしまったけれど、本当はすごくすごく嬉しかった。
友達に祝ってもらって、家では両親が待っている。
自然と笑顔になってしまう。