拾万打記念

□act,2
2ページ/3ページ



半年ほど前にやって来た、今の家庭教師は、ダサい丸眼鏡に長めの漆黒のもさい髪型で、胡散臭い関西弁で、でもまぁ、そこそこイケメンだと思う。
お父様には、到底及ばないけど。

今までの人達とは違う、ちょっと変わったやつ。

大概の人は、僕に気を遣ってばかりで、勉強以外の話なんかすることはなかった。
でもあいつは、忍足侑士は、まるで、友達みたいな。

今までで一番長く、僕のそばにいた、家庭教師。




「景吾はまた100点かよ」

「当たり前だろ、そういう亮は何点だったんだよ」

「う…」

「ん?…ははっ、ばーか」

「うっせーよ!」




まぁ、そいつのおかげとは言わないけど。
だって元から僕にわからない問題なんかないんだから。

でも、あいつのおかげで、少し家に帰るのが楽しくなった。

ミカエルがいつもそばにいてくれるけど、家に帰っても、僕とふざけてお話しをしてくれる人は、いなかったから。

あぁでも、そんなあいつも今日はお役御免。
だって今日は僕の誕生日。

お父様とお母様が、お仕事から帰ってきてくれる。
僕のために、家族とミカエル達と誕生日パーティーをしてくれる。




「あれ景吾、もう帰るの?」

「あぁ…何か用か、萩之介?」

「いや、大したことじゃないけど…、はい、お誕生日おめでとう」

「は?何、お前今日誕生日?!」

「まぁ黙ってなよ、亮」

「う…」




萩之介が背中から出したものは、両腕でも大きすぎるほどのバラの花束だった。
赤い花束はとてもきれいで、ふわりと香った香りはとても良いものだった。

聞けば、萩之介の家で育てていたものらしい。
僕に一番お似合いの花を選んだと言っていた。




「それから、これ」

「!…青いバラ…」

「そう、景吾の瞳の色と同じ青いバラ。花言葉は、神の祝福」

「神の祝福…」

「今日一日が、景吾にとって素晴らしいものでありますように」




赤い中にすっと差し込まれた青いバラ。
赤にはない、また違う美しさ。

亮は、そんな僕たちの横で慌てたようにランドセルを漁っていて、出てきたのは結局小さなチロルチョコだった。




「まぁ亮だしな、これで許してやるよ」

「んだとー!」




思わずそんなことを言ってしまったけれど、本当はすごくすごく嬉しかった。

友達に祝ってもらって、家では両親が待っている。
自然と笑顔になってしまう。





次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ