音也/トキヤ

□くせ(真帆)
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■くせ




 俺だったら何だって分かるのに。


 □


 移動教室の時にさりげなくSクラスを覗き見た。
 真ん中より後ろのあたりの席に紺色くらいの髪色をした男子生徒がいる。

「……トキヤってさ、」

 柄にもなく独り言を呟いて何もかもやめにした。こんなことしても無駄って分かってる。
 トキヤは俺と寮が同室だ。だからなんでも分かってしまうし、トキヤのすることから考えてることだって分かる。
 だからこそ一緒にいるのが苦しい。

「一十木くん、あの、ここのフレーズなんですけど……」

 パタパタと後ろから走ってくる声が聴こえたと思えば遠慮がちに声を掛けてくるこの子は七海だ。俺のパートナーで、よく一緒に行動してて、それで。

「あ、そこはこうしたいな」
「じゃあじゃあそれってこの辺と同じ感じってことですか?」
「うん、……そこよりはもうちょっと……」

 Sクラスと通り過ぎながら七海と話し合っていたら教室の中から弱い視線を感じた。
 ――トキヤ、
 俺がトキヤと目を合わせると彼は何もなかったかのように前を向いて次の授業の予習かなにかをし始めた。

「……一十木くん?」
「あ、なんでもない! 早く行こう」

 隣の少女は知ってか知らずか俺にも無邪気な笑みを向けてきた。

「……そうですね!」

 なんでなんだろう。


 □


 深夜近くなってきた頃、トキヤが帰ってきた。明日の朝のニュース番組の撮影だったらしい。

「おかえりトキヤ」
「ああ、ただいま音也」

 トキヤは平静を装っているように返事をした。でもいつもとは微妙に違って見えて、何かを訊きたそうにしているのが分かった。

「トキヤ」
「なんですか」

 俺の呼びかけに少し期待のこもった目と一緒に言葉を返してくる。
 もう分かってるよ何が訊きたいか。俺は訊かれるまで教えないけど、――まあ訊かれても教えないだろうけど。

「俺ならなんだって分かるのに」
「……音也? なんのことですか?」
「なんで、七海なんだよ……」

 トキヤは何も言わなかった。

「俺は、俺は、……っ」

 俺も何も言えなかった。

「……音也は、あなたは、」


 続きを知るのは彼のみ、




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 次ページはあとがき


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