そこにあるもの
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レコーディングテスト。
レコーディングテスト。
作曲、作曲、作曲……。
「ああ〜っ、浮かばないいぃ……」
わたしは今、寮の自室で来るレコーディングテストに向けて作曲に励んでいます。「励んでいる」という割には進んでいないけど……。
良いフレーズが思いつかずに悩み続けて1時間。普段ならそろそろAメロは終わるくらいだけど、今日はなぜかフレーズすら浮かばない。
「うーん……外に出てみようかなあ……」
どうせ気分が乗らないのだ。別にルームメイトもいないから、部屋の使い方は勝手だ。声をかける必要もないから楽だと思うけど、少し寂しい。
一十木くんに作曲のことで話しに行った時も、一十木くんと一ノ瀬さん(やっと名字を知った)が話しているのを見て少し羨ましかった。
「じゃあちょっと着替えないとな……」
「春歌ちゃん、居ますかー?」
服の裾に手を掛けたとき、ちょうど外から声がかかった。声と口調からして誰か分かっているけど、一応声を掛ける。
「あの、……着替えるので少し待って頂けますか?」
「いいですよぉっ」
「すいません……」
断りを入れて急いで着替え始める。さっきまでパーカーにだぼっとしたズボンだったから人に会うついでに着替えないと見せられない。
わたしが選んだ服は、薄いピンクのワンピース。胸元にさりげなくコサージュ。白のカチューシャを付けて、トレンカを履く。靴はバレエシューズでいいかな。
ワンピースは半袖なので、上から薄手のカーディガンを羽織る。春先とはいえ寒がりのわたしにはまだ少し寒いのだ。
急いで身支度を終えて、ドアまで走る。
「すいませんっ、お待たせしまし、ひゃうっ!?」
「ああっ、やっぱり春歌ちゃんは可愛いですっ……!」
「那月、離してやれよ……」
ドアを開けると同時にわたし以上の力でドアが開いて、目の前からいきなり抱き締められた。あまりの力の強さに気を抜いたら意識が飛びそうになる。
「な、なななな那月く……、くるし……です……」
「那月っ、離せって」
「あ……ごめんなさい。春歌ちゃんが可愛くてつい……」
「いえ、その、ちょっと苦しいですけど、構いません」
わたしの部屋を訪れたのは四ノ宮那月くんと来栖翔くん。二人はクラスこそ違うけど昔から仲良しでルームメイトなのもあってとても仲良し。来栖くんは苦労しているみたいだけど……。
「ところでお二人はどうしたんですか?」
二人がなぜ来たかわたしには分からない。パートナーでもないし、来栖くんはいつも話しているわけでもないし……。
「お菓子を作ったんです」
「へ?」
「一緒に食べませんか?」
「お菓子……」
甘い響きに心が揺らぐ。でもわたしは気分転換の為に外に出ようと思っていたのだし、二人には悪いけど用があるからと――
いや、そうしなくても、いいのかな。
「あの、今から外に出ようと思ってたので、外で座って一緒に食べませんか?」
出来るだけにこやかに言ってみる。
「わあっ、それは素敵ですねえ! 翔ちゃんも一緒に行きましょう!」
「ああ、うん、分かったよ」
「良いんですか?」
思ったよりもあっさりと肯定の返事が返ってきたのにびっくりして訊き返してしまう。
「いいんですよお。小鳥さんたちを眺めながらお菓子を食べるなんて素敵です!」
「俺たちから押しかけたんだから、それくらいどうってことない!」
「……じゃあ、ちょっと準備しますね!」
二人を部屋に入れて、自分の支度を始めた。
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