そこにあるもの
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わたしの着替えが終わり、三人で外に出た。心なしか翔くんの顔色は悪かった……というか青ざめていて、お菓子なんて食べれるような状況じゃなさそうだ。
「あっ、そこのベンチにしましょう」
四ノ宮さんが池に近い木陰のベンチを指差し、走っていく。取り残されたわたしと来栖くんは二人で四ノ宮さんの後を追って歩いた。
「……なあ、七海」
「はい、なんでしょうか」
「……覚悟しろよ」
「へっ?」
なんのことかさっぱりだけれど、来栖くんはきっと唇を噛んで深刻そうな顔をしていた。
「何をですか?」
「それは、那月の「二人とも、早く食べましょう」
思わず立ち止まってその言葉の先を聴こうとしたら四ノ宮さんが声を掛けてきた。
ベンチまでの距離はそんなに開いておらず、そこで立ち止まったわたしたちを怪訝に思ったようだった。
「あっ、はい。……うわあっ、美味しそうですね!」
ベンチに座り、バスケットの中から見えるクッキーやゼリーが見え、思わずそう口にしたら隣に座った来栖くんがびっくりしたような顔でわたしを見つめた。
……なんでだろう?
でも、ゼリーに光が反射してキラキラと光っている。色は不思議な色をしているけど、美味しそうだ。
「頂いてもいいんですか?」
「春歌ちゃんの為に作ったんですから、どうぞ〜」
「あ、ありがとうございます……」
わたしの為という言葉に無意識に顔が赤くなる。急に気恥かしさを覚えて、ゼリーを手に取り俯いた。
ゼリーにスプーンを入れると小さな抵抗と共に先が中へ入って、綺麗なそれに亀裂を入れた。
少し掬ってみると、やっぱりそれは綺麗だった。
「……頂きます」
「どうぞ〜」
「……あー……もう駄目か……」
わたしはゼリーを口に入れる寸前、来栖くんのつぶやきが聴こえたような気がしたけど何を言ったか分からなくて、わたしはゼリーを口に入れた。
「……、…………」
苦い。辛い。甘い。痛い。とてつもない味の洪水に味覚が麻痺しそうになる。いや、むしろそうなった方が楽なのかもしれない。
なんだろうこの味。
四ノ宮さんは一体何を入れたんだろう。
そんなことを考えながら、わたしは意識を手放した。
少しの既視感と共に。
□
「……い、おい、七海」
「ん、んん……、は、えっ、」
目が覚めた。
来栖くんの声が上から降ってくる。
眩い光が差し込んで、少し眩しいけれど目を開けて周りを見た。
場所は最後に居た場所と同じ木陰のベンチ。わたしはそのベンチに寝せられているようだ。
……何が、起こった。
「お前、那月の料理食って、倒れたんだよ。変な味とか気持ち悪いとかないか?」
「あ……あー……。いや、ないです。大丈夫です」
「そっか、良かった」
良かったと言って微笑む来栖くんの顔は優しさに溢れていて、安心してもう一度寝そうになった。
「……そういえば、四ノ宮さんは、」
「あー、なんか先生に呼ばれて行ったぞ」
ということは。
ふたりっきり、……ふたりっきり!?
「あっ、あ……、じゃ、じゃあもう大丈夫なので、帰りますね!」
「へっ? あ、おう。お前が言うなら……寮まで送るよ」
「そそそそんなお気になさらず」
「いやいいって。送る。ほら行くぞ」
強引に手を引かれてベンチから立たされる。そしてそのまま寮への道を歩き出した。
「…………」
隣を歩いている来栖くんは何やら考え事をしているようで、気難しい顔をしていた。
「来栖くん?」
声を掛けると彼はちょっとびっくりしたように肩を震わせてこっちを向いた。
そのあとちょっと真剣な顔になって口を開いた。
「あ、……あのさ」
「はい?」
「春歌って呼んでもいいか?」
「……、いいですよ」
「じゃあそうするな。……あ、俺のことも、別に、『翔』で良いから」
「あ、は、はい……」
ほんとは下の名前で呼ばれるなんて恥ずかしい、けど。来栖くん……翔くんになら、良い気がした。
不思議な安心感とともに、わたしは寮への道を帰るのだった。
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→おまけ