鏡の国の王子様

□第一章:出会い リクームグルド
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その頃、王子の怒りを買った(とばっちりとも言う)リクームバータは庭園の倉庫に向かって歩いていた。

二人は、

「なんだよ、王子のやつ!俺たちが何したってんだよぉ!」

「完全にとばっちりじゃねえの?」


などと文句をぶつけ合いながら、倉庫に到着した。

バータは、倉庫入り口手前のガーデニング道具の入っている箱から、剪定ばさみを取り出した。

「確かにバラの棘は痛えからな。仕方ねえから手入れしてくるか」

バータは言うと、ウエストバッグを腰に着けて倉庫から出て行った。

一方、リクームは倉庫の奥からホースを探し出すと、
それを肩に掛け、デッキブラシとバケツを手にして出てきた。

扉に鍵を掛けながら、

「確かに苔なんかない方が綺麗だもんな。仕方ねえから掃除してくるか」

そう独り言を言うと、倉庫を後にした。


池に着いたリクームは、持って来た道具を地面に置いた。

汚れている箇所を確認しようと、池を覗き込む。

すると、泳いでいる魚が目に入った。

「あ!魚がいたんだったな!網持って来るの忘れちゃったぜ!」

と、肝心なことを思い出したリクームは、大急ぎで網を取りに行った。


倉庫から戻ってきたリクームは、着ているつなぎの袖と裾を捲った。

「さーて、始めるか!お魚ちゃんたち、覚悟しなよ〜!」

そう張り切ると、網で魚を掬い始めた。

かなり大きい池に泳ぐ200匹近い魚たちをあっという間に全て掬い上げ、バケツに移した。

「はーぁ。張り切ったらちょっと疲れちゃったなぁ〜!」

リクーム
は、池の水を抜く前に、少し休憩を取ることにした。

池の目の前にある大きなベンチに寝転ぶと、すぐにイビキをかき始めたのだった。

日差しは暖かく、絶好の昼寝日和だ。

穏やかなお昼寝タイムを、リクームは楽しんでいた。

そんな暖かく穏やかに流れる時間は、「ドボーン!!!」という音であっさりと終わりを告げた。

「おおい!!このリクーム様の眠りを妨げたのはどこのどいつだぁー!!!」

大声を上げると同時に飛び起きたリクームは、音のした方へとドスドスと足を運んだ。

大きい音は、池の方から聞こえた。

揺れている水面から想像すると、おそらく池の中だろう。

リクームは池に向かって、

「おらおらー!!出てきやがれー!!水の中にいるのは知ってんだぞー!!」

と、叫んだ。

しかし返答はなく、何かが現れる気配もなかった。

「ん〜?気のせいだったか〜?」

何も変わらない状況に、リクームは首を傾げながら踵を返す。

自分の眠りを妨げた音のことなどもう既にすっかり忘れ、池の掃除を始めるところだった。

そして、張ってある水を抜く為に、ライオンの水栓の裏側のボタンを押そうとしたその時だった。

池にふと目をやると、ぷかぷかと何か浮かんでいるのだ。

少し前までは何もなかったのだが。

「はぁ〜」とため息をつき、一つ増えた仕事をリクームは仕方なく先に片付けることにした。

網を手にし、そのぷかぷか浮かぶ何かに向かって投げつけた。

「よーしっ!」

そのぷかぷか浮かぶ何かは、リクームの並外れたコントロールでうまく網に引っ掛かった。

そのまま引っ張り上げ、網から出そうと中を覗いた。

「なんだぁ〜?おいおい。お前かよぉ〜・・・」

網に掛かった何かは・・・・・

「グルドじゃねえかぁ・・・何してんだあ?泳ぎたくなったのかあ?」

リクームやれやれとした顔で、グルドに話し掛けた。

しかし気を失っているのか、返事はない。

網から出したグルドの片足を持ち上げ、逆さ吊り状態で振ってみる。

「グルドー?!」

もう一度呼びかけるが、返事はない。

「変わった水着着てんなー?まあいっか。そこのベンチで寝てろ」

リクーム
は、掴んでいたグルドをベンチに向かって放り投げた。

グルドの体は、リクームの絶妙なコントロールのお陰でベンチに寝っ転がった。

リクームはそれを見届けると、満足気に池掃除を始めたのだった。
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