2

□The Star Rank2
1ページ/3ページ

「すまないな、紫音。
こちらから招待したいと提案したのに、荷物を持たせてしまって」

言葉通り心底済まなさそうに言う遊星に、紫音はジャンクの入った袋を小脇に抱えながら黙って首を横に振る。

いつになく荷物を満載したDホイールを押して歩く遊星の後をついて、紫音は彼の居住区へとやって来た。

郊外の住宅地の中の見覚えのある噴水広場の一角に立てられたガレージが、遊星たちの家だという。

広場の噴水をはさんだ向こう側には紫音のバイト先およびジャック御用達の喫茶店、『CAFE LA GEEN』の店舗が見えた。

これほど近くに住んでいたことに紫音は素直に驚きつつ、遊星に招かれるままにガレージの扉をくぐった。

一階部分が広場の地面よりも少し掘り下げられ、さらに天井が二階まで吹き抜けになっているため、ガレージ内は外観よりもずっと広く感じた。

遊星の話によればこのガレージは隣に建っている
『POPPO TIME』と看板の掲げられた時計屋のもので、その店はゾラという婦人とその一人息子が経営しているそうだ。

ゾラ婦人は遊星達の育ての親であるマーサの知り合いで、サテライトからシティへと進出するに当たって居住で悩んでいた彼らに、厚意でこのガレージを貸し出してくれているという。

荷物を持ったまま玄関で突っ立っている紫音に、別の場所からシャッターを開けDホイールを押して中に入ってきた遊星は、荷物を適当に床に置くように言うと居住スペースである二階へと誘った。

歩くたびにがたがたと揺れる階段を登った先のリビングには、ソファと小さなテーブル、窓際に設置されたデスクの上にパソコンが一台あるだけで、シンプルというよりは質素な印象である。

「今何か用意するから、適当に座っていてくれ」

そういって台所に向かう遊星を見送って、紫音は彼の言葉に甘えて大人しくソファに体をあずけた。

寮のラウンジに設置された高級なソファに慣れているせいか、腰を下ろしたソファは固くお世辞にも座り心地がよいとは言えなかったが、歩き疲れて棒のようになった足を休めるには十分だった。

ソファに身を沈めてすぐに襲いかかってきた猛烈な眠気にしばしうとうととしていたが、机に置かれたカップの音で意識を浮上させた。

湯気を立てるカップのからは、バイト先のものと同じコーヒーの香りがした。

同居人の趣向だろうか、と紫音はどうでもいい事を考えた。

「学生生活もなかなか忙しいみたいだな」

遊星の言葉に、紫音は曖昧な笑顔を浮かべた。

なるべく自らの話からそれるように、紫音は先ほどの荷物について遊星に問うた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ