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2010年4月26日 月曜日
紫音がその街に降り立った瞬間に感じたのは、どこか全く別の国…いや、世界に迷い込んだような錯覚だった。
月並みな表現ではあるが、たかだか十数年の自分の人生ではそれがせいぜいであった。
街で見かけるようなチカチカとするだけが取り柄の電光掲示板や、都会のシンボルのようにビルの壁に張り付いている大型のテレビといった野暮ったいものはなく、
変わりに並ぶは美しい空を背景にしながらもスクリーンに鮮明に映し出された、広告やテレビ中継。
建物は白で統一され、クリーンかつ爽やかで理想の街並みを見事に演出している。
行き交う人の多さは都市の大きさに比例していたが、都会の雑然とした空気を醸しながらも、人の流れさえも緻密に計算されたような確かな洗練さがうかがえた。
それはまさしく映画の中でしかまみえないような、近未来の風景だった。
巖戸台も日本では発展を遂げた学園都市だったが、この街には到底及ぶまい。
ここまでの道すがらずっと耳を覆っていたお気に入りのヘッドホンを外すと、街のざわめきが直に耳を通り抜けた。
ちょうど手前のスクリーンで、先ほどまで映し出されていたデュエルと呼ばれるカードゲーム大会の中継がCMに切り替わった。
今月頭から有料配信されている新譜のCMだった。
確か今年のデュエル大会の公式テーマソングだ。
ーー途切れないように消えないように自分を確かめてーー
誰が歌っているのかは忘れたが、絆をテーマにしたアニメソングのように力強く、熱い歌だ。
絆、か。
子供じみた夢を孕んだその歌詞を、ふっ、と鼻先で笑った。
どうしてか、胸がじくりと膿んだように痛んだ。
痛みを振り切るように紫音はヘッドホンで耳をふさぎ、新しい街の雑踏に紛れるように歩きだした。