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□Full moon2 〜The latter half
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くぐり抜けた扉の先でまみえたのは、壮絶な光景だった。
今にも落ちてきそうなほどに接近した、巨大な月。
誇張表現の当たり前なイラストの世界などではよく見る巨大な月は、幻想的というよりは不気味という方がしっくりくるほどで、見る者の心に不安感を植え付ける。
光量を極限まで絞ったもう一つの太陽のように白く発光する月、その狂気的な光に群がる異形の群れ。
闇から生まれ落ちたようなそれらは、どろどろと不定形な体を揺らしながらこちらへと、そして屋上の中央に居る美鶴たちへと波のように迫っていた。
「くそっ…!」
一切の光さえ届かない深海色の波間から、にょき、と生えた真っ黒に腐食した腕のようなものを、美鶴は必死に切り落としている。
しかし半ばから切り落とされたそれは、水面を叩くような音をさせて迫り来る闇の中に沈むと、また別の場所から同じ腕を生やす。
暖簾に腕を押すような攻防に、美鶴たちは少しずつではあるが、じりじりとこちらへと後退している。
紫音は迷わず腰の銃を引き抜いて、自らの額に当てて引き金を引いた。
「『ブリューナク』!」
「『ブラック・ローズ・ドラゴン』!」
同じように横に追いついたアキの声と、紫音の声がはもる。
狂った月の下、冷気をまとった龍と、火の粉のような熱気を孕んだ花弁をまとった龍が、それぞれの目の前に現れる。
轟くニ体の龍の声にも、ソレらはおののくどころか、どこか嬉々とした様子でこちらへと前進を始めた。
「スノー・ミストラル!」
「ブラック・ローズ・フレア!」
凍れる吐息と炎の息が同時に吐き出された。
それらは互いを打ち消す事なく、襲い来る闇の脅威をあるいは氷の中に閉じ込め、あるいは炎の舌で焼きつくす。
「おしっ!
効いてんじゃん!」
紫音の肩越しに覗いていたクロウの弾んだ声。
たなびく雲のように蒸発していくソレに、紫音もこの調子で少しずつ除去していけば、と考えていたのだが。
「神無瀬、後ろだ!」
突然の加勢にこちらを振り返った美鶴が、警告の声を飛ばした。
紫音はこめかみに銃口を押しあてながら、振り返る。
しかし結果的にそれが仇となった。
どす、
と鈍い音がした。