Novels.

□悪夢。
1ページ/3ページ

―――――――
――――
――

カチャカチャカチャッ…
タンッ…タンタンッ…カチャカチャッ…―

静寂に包まれたオフィスで、
パソコンのキーを打つ音が響き渡っている。


「…あー、大島君。」


来た――…

一瞬、キーを打っていた自分の手が止まる。


「すまないが、地下の倉庫で次の会議で使う資料を取って来てくれないか。」


いつものトーン、いつもの口調で、
課長が言う。


「あっ、はい、分かりました。」

「すまないな、頼んだぞ。」


――ガチャ、バタンッ


大島は課長に言われると、直ぐに部屋を出ていった。


―待ってましたよ、課長…

僕は、期待に胸を膨らませていた。


「……。」


だが、課長はいつもと違って、
ずっとデスクの資料と睨めっこしている。

―――あれ…?

僕は、不思議に思った。

本当言うと、
いつもなら課長、いや、ビバリさんは今みたいに、
理由付けて大島を部屋から追い出し
"なあ、いいだろ?"と、僕に迫って来てくれる。

なのに、今日は…――


「あー、我修院君、この資料を今日中にグラフと合わせてまとめておいてくれないか。」


―…え?

――今、何て…


「どうした、何ボケっとしているんだ。」

「…っあ、は、はい、すみません。」

「全く、お前弛んでいるんじゃないか。しっかりしろ!」

「あっ…!…申し訳ありません…直ぐにやります…」


ビバリさんは、手に持っていた資料を僕の胸に叩きつける様に投げた。


「……、」


何故だ…、
ビバリさん…
何故、いきなり…そんなに冷たく…―


―ガチャ、


間も無く、大島が戻ってきた。


「課長。資料、持ってきました」


と、いつもの陽気な声で言いながら課長に資料を渡す。


「ああ、ありがとう。…そうそう、これだこれ。」


資料にパラパラッと目を通せば、大島を見て笑う。


何でだよ…、
大島、お前なら、いつものお前なら、課長の頼んだ資料一つ持ってこれないだろ…


「何で…。」


僕は手が止まったまま、その一部始終を見ていた。

そんな僕に気付いたビバリさんが、
"いつもと違うビバリさん"が、黙っちゃいない。


「おい!何してんだ!さっきからずっとボーっとしてるぞ!やる気あるのか!?」

「!!すっ、すみませんっ…」

「あのなぁ、君がしっかりしないと、ピカル商事はやっていけないんだよ。頼むよ、我修院君。」


そう言って、ビバリさんは、
…いや、今は僕にとってはただの課長が、僕の肩に手を置いた。


ビバリさん…
ビバリさん…
どうして…、
何があったって言うんですか…――


「…?!な、どうした、泣いてるのか…?」

「っ…、ずっ…グスッ…
ビバリさん…ビバリさん!!」


僕は思わず、ビバリさんの名前を叫びながら立ち上がった。


「ビバリさん、何でなんですか!僕、何かしましたか!?
ビバリさん!答えて下さい!!」


僕は、顔を涙で濡らしながらビバリさんに訴えた。


「我修院君っ…」


一瞬、ビバリさんの表情が緩んだ、と思った。

だが、それは僕の思い過ごしだった。


「我修院君!君は誰に向かって、ビバリさんなんて言ってるんだ!
私は君の上司だぞ?失礼にも程がある!」


ビバリさんは凄い剣幕で僕を怒鳴った。


「だ、だって、ビバリさんは…僕の…僕の恋人じゃないですか!!」


大島が居るにも関わらず、僕は僕達の秘密にしている事を叫んだ。


「……は…?」

「…え…?」


大島とビバリさんは顔を見合わせている。


「だぁっはっはっは!!が、我修院君っ、何を言っているんだ…、はははっ、笑わせてくれるなっ」

「…えっ…」


ビバリさんは笑い出した、大島も一緒になって…


「な、何がおかしいんだ!大島!!」


笑い出す大島に僕はカッとなって、大島の胸倉を掴んだ。

その瞬間、僕の左の頬に激痛が走った。
そして、吹っ飛んだ。


――ガシャアンッ!!


「ってぇ…ッ」


吹っ飛んだ拍子にロッカーに背中をぶつけ、
その場に倒れ込んだ。


「我修院!大島君に何てことするんだ!」

「で、でもビバリさんっ…」

「大島君は私の恋人なんだぞ!!」

「!!?…なん、だって……」

「だから、気安くビバリさんなんて呼ばないでくださいね?我修院さん?」


と、大島はビバリさんに寄り添い、僕を見下して笑っている。


「分かったか我修院君!!だっはっはっはっは!!」

「あははっ、ふふふふっ」


二人が笑っている…

ああ、一体、何が起きたんだ…


僕は、ビバリさんの一撃が効いたのか、
意識が段々と遠退いていく…


……―――
―――――――
――――――――――
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ