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□しあわせは此処にある
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「結婚しよう。」
―しあわせは此処にある―
「…え、ちょっと待って下さい、え?」
「え?じゃあない。結婚しよう。」
ちょっと待てちょっと待てちょっと待て。
何事だ、え?何事?
何で何で何で何で。
何でこの赤毛の黒コートがわたしの部屋にいるんだ。わたしはちゃんと鍵をかけて家を出たハズだ、間違いない。
なのに何で何で何で何で何で、わたしが帰宅するとこの男はさも当たり前のようにソファに座っているのだしかも、我が物顔で。
「ちょっと待ってください、え?」
「それはさっきも聞いた。もういいだろう」
「いやいやいやいやいや!!!」
仰々しく腕を広げながら一歩一歩近づいてくる男に、もう動揺を隠せない。どうにもならん、だめだこいつ早く何とかしないと…
「結婚しよう。」
「……………」
「沈黙は肯定と受け取るが?」
「………あ…」
「?」
「あい、されるのは嫌じゃないです…」
「!!」
…はっと気づく。
何を、何を口走ったんだわたしは…!?
しかしながら、わたしに「結婚しよう」と言うクレアのまっすぐな目や、嘘のない(と思われる)瞳の輝きを見ていると、こう…こんなにまっすぐに、ひたむきに、愛されるのも悪くないかなと…
なんてことをうだうだと考えているうちに、突然わたしの視界が真っ暗に。それと同時にふわりと優しい匂いが鼻を掠める。
「……く、くれ、あ…?」
「嬉しい。凄く嬉しい。」
嬉しい、と言葉を綴るごとに、クレアの、わたしを抱きしめる腕の力が強まる。
それを感じて、何だかわたしも嬉しくなってきた。きっと、相乗効果というヤツ。
「で、でも結婚はまだ早いです…」
「あぁ、待つさ。幾らでも。」
ずっと、ずっとしあわせを探してたんだ。
ずっと何が幸せなのかを考えていた。
こんな近くにあったんだね
「くれあ…」
「何だ?」
「わたし、今までクレアがいっぱい愛してくれた分、これからいっぱいいっぱいクレアを愛するからね、」
「………その言葉だけでも十分なわけだが」
そっと、密着していた体が離れる。
両肩にすっと肩を置かれ、見上げるとそこには頬を少しだけ赤らめた、愛しい赤毛。
クレアは微笑んで、ゆっくりとわたしに顔を近づけてきた
びっくりしたけど、今はそれよりもしあわせの方が大きかった。
「…だが、俺も、愛される喜びを味わってみたいものだ。お前に、な。」
その言葉と同時にそっと重なる唇。
葡萄酒と呼ばれるだけあって、クレアさんの唇はほんのり甘かった――…。
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