シリーズ

□愛しき玉
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「和人、大丈夫か?」

「無理しちゃ駄目だよ?」

あのあと委員会室に向かうと食堂での出来事の報告がすでにされていたのか委員長や副委員長を筆頭に委員会のメンバー全員に揉みくちゃにされて気遣われた。


でも何か勘違いされてるよな。

「みんなには悪いけど俺気にしてねえんだわ」

俺は別に今会長のことなんてどうも思わないし。
そう言うと皆が固まった。何で固まるんだ?



「皆も知ってるだろうけど俺さ、今まで恋したことないだろ?恋愛感情で人を好きって感じたことがねえの。一生恋ってできねえのかなって思ってたんだけどあの男が俺も恋愛感情抱くことができるって教えてくれた。だからそれで十分満足」

「和人…」

「それにな、俺が恋愛感情に気付いたのって情けないことに今日だったんだよ。しかも“愛してる”じゃなくて“愛してた”。今はあの男に対してもう過去の思い出としての恋愛感情しかない」


そう告げると委員長にくしゃくしゃと頭を撫でられた。

それが心地よくて目を細めると他の人達も俺の頭を撫でたり俺を抱きしめたりしてきた。


「俺、皆のことは好きだ。恋愛感情じゃないけど大好き」

「ああ、俺達も和人のこと好きだからな」

「疲れてるだろ?お休み」

そう言って委員長が俺を向かい合わせで膝に抱き抱えて椅子に座る。

委員会に出席するといつも必ず誰かしらにこれをされる。

膝の上で抱かれたまま寝るなんて子供みたいで嫌だけど優しくぽんぽんと背を叩かれるとすぐに睡魔が襲ってくる。


「お休み和人」

副委員長の柔らかい声を最後に俺は意識を手放したのだった。











「和人寝たね」

「ああ」

副委員長の言葉に委員長が和人の頭を撫でながら答える。

和人は平凡な顔立ちだけど優しくて気が利いて、学園の人気者。
生徒会の奴らみたいに性欲の対象じゃなくて、ただ仲間として好かれる。

特にここ、風紀委員会はそれが如実。恋愛対象として和人を見る人はいないけれど、和人は皆に可愛がられて好かれている。
勿論俺も和人が好きだ。


そんな和人は何故か会長と付き合っていた。

会長は和人のことを溺愛してたし、和人も会長のことを拒んでいなかったからこれならいつかは和人も人を愛せるようになるかもと期待していた。


だけど和人が会長への恋心に気付いたときにはもう全てが終わっていた。

和人の想いも、なにもかも。



初めて和人が人を愛せたのに気付いたときには終わっていたなんてあまりにも酷すぎる。



皆俺と同じことを考えているらしく、委員会室を見渡すと皆唇を噛み締めていた。




「お前ら落ち着け。和人がもう気にしていないのなら俺達は口出し無用だ」

委員長の言葉に副委員長も続ける。

「おれ達は何もしなくていいんだよ。和人が助けを求めてこない限りは」

「和人があのバ会長を好きだったのは過去の話。掘り返すな」

その言葉に俺達は頷いた。

会長は腹が立つが和人が気にしてないのなら忘れよう。

もう和人と会長が関わることなどないのだから。




「ん、ぅ…」

不意に和人がむずがるような声を出して身じろぎした。

その姿は大変愛らしい。





俺達の大切な玉。

願わくば次は幸せな恋ができますように―――…




愛しき玉

(WE WISH YOUR HAPPINESS!)


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