シリーズ

□過去形の恋心
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『俺と付き合ってくれ』

『…無理だ』

『何故だ』

『俺は恋愛感情がわからねぇ。人を好きだと思えねぇ』

『なら俺が恋愛感情を教えてやる。俺に惚れさせてやる』

『自信満々だな』

『当たり前だ。俺様に惚れないはずがないからな』

『自意識過剰ナルシストめ』

『うるせぇっ!!いいから俺と付き合え』

『え、強制?まあいいけど』

『絶対愛してるって言わせてやるからな』

『ははっ、期待しとくわ』


そんなやりとりをして紀一と付き合いだしたのは二年前の俺の誕生日。

この時の俺は呆れながらも内心期待していた。

こいつなら俺に“愛”を教えてくれるかも、俺に“恋”を教えてくれるかもと。




事実、俺は紀一に多くの感情を教わった。

恋愛感情かどうかはわからないけどぽかぽか温かい感情。


それなのに、今俺の心はこんなにも空虚で寒い。




俺の視線の先には醜い転入生といちゃつく紀一の姿。

友人は不安そうに心配そうに俺を見る。


ああ、お前はもう俺を“愛”していないのか。

ならばもう終わりにしよう。
紀一が俺を愛していたからこそ続いていた関係なのだから。


俺は友人に一言告げて席を立ち、紀一の元へと向かった。



「紀一」

そう呼びかけると紀一と転入生、他転入生信者たちが一斉に俺を見る。

「誰だよお前っ」

「うるさい転入生。黙れ公害喋るな下等生物」

「なっ!?」

怒りに顔を真っ赤にする転入生と信者を放置して紀一に向き直る。


「和人何か用か」

「あ?ああ。ただ終わりにしようと思ってな。もうお前いらない」

紀一の目を見て言ったら紀一が固まった。



「いらないって何だよっ!!」

ぎゃんぎゃん喚く転入生。うざいな。

そう思いながら俺は手にしていた紙袋の中身を食堂のテーブルにぶちまけた。

中から出てくるのは
紀一からもらったピアス
紀一からもらったペンダント
紀一からもらった髪留め
紀一からもらったetc…



「転入生、お前紀一のこと好きなんだろ?紀一からの贈り物だ、お前にやるよ。あと紀一の部屋のルームキーのスペアももう俺が持つべきじゃねぇだろうしやるわ」

転入生の胸ポケに鍵を突っ込む。
あとやり忘れたことは…と。


ケータイをポケットから取り出して逆パカ。

バキィという音が静かな食堂内に響いた。

よし、これでやり忘れたことはないな。





「和人…」

今まで硬直していた紀一が俺の名を呼んだ。

「何、会長。あと俺のことはこれから風紀とでも呼んでくれ、不快だから」

無表情で言い放つ。

「それと先生方からの伝言。生徒会及び転入生は授業の出席日数が足りないから来年留年だってよ。よかったな」

愛しの転入生と共にいれる時間が増えて。

俺の言葉に青ざめる信者たち。
そりゃそうだろう、留年だなんてレッテルは一族の恥だもんな。

転入生は転入生で何で留年しなくちゃなんないんだ、おかしいっ!!だのとほざいている。







最後に一言。

「会長、恋愛感情を教えてくれてありがとう。“愛してた”よ」

それだけ告げると俺は食堂の扉の前で待つ友人の元へと駆け寄った。



さようなら、俺の初恋。



過去形の恋心

(気付いた時には)

(終わってた)



―――――
シリーズ化した平凡総愛され。
平凡は総受けよりも総愛されが好き。ノット恋愛感情で愛でられてればいい。


和人→風紀委員。恋愛不感症。無表情平凡。でも人望あり。紀一の恋人。

紀一→会長。和人大好き。よくありがちな「受けの気持ちがわからないから浮気」みたいなノリで転入生にちょっかいかける。

転入生→紀一のことが好き。王道くん。和人が邪魔。

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