君がいるから
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土曜日。
合同練習がやって来た。場所は普通に立海のテニスコートだった。
氷帝の人達が到着するのを待っていたら、わなわなと震える梶原さんに胸倉を高々と掴まれた。苦しい。
「何であんたがいるのぉ!?」
「……やー、梶原さん」
「質問に答えなさいよ!」
「いたたた」
何で毎度毎度こうなんだ。確かに私が此処にいる事はおかしいけど。幸村くん命令なんだから仕方ないじゃないか。
「その辺にしといたら」
「あっ、精市ぃ!高木さんが無理言ったんでしょぉ?飴芽が追い返してあげる!」
「柚葉の事悪く言うなよぃ!つーかいつまで胸倉掴んでんだ。男らしすぎるだろ」
「ま、丸井……!」
「あれ、俺は?」
あ、つい丸井に感動して。ようやく手を離されたので、幸村くんもありがとうと頭を下げた。
「また……また精市とブンちゃんを脅したのねぇ。心配しなくても飴芽が助けてあげるよぉ!」
「……相変わらずやなあ」
憤る梶原さんの背後から、やや引き吊った声が聞こえた。そちらへ視線を向けると、いつの間に到着したのか、氷帝だと思われる人達が立っていた。
「あーっ!みんなぁ、久しぶりぃっ!飴芽ぇ、会いたかったよぉ!」
「……マジでマネージャーやってんのかよ」
信じられねーと呟くおかっぱの人。大げさに溜め息を吐く丸眼鏡の人。困った顔をしている背の高い人。嫌そうな顔の茶色いおかっぱの人。エトセトラ。
氷帝も濃い人達だ。
「やあ、よく来たね」
「……ああ。久しぶりだな、幸村」
「うん、久しぶり。え?何?梶原さんを引き取りたいって?そっか、仕方ないね。良いよ分かった。うちには高木さんがいるからね」
「何も言ってねえ」
一人でぺらぺらと喋る幸村くんに、美形で泣き黒子の人が顔を顰めた。というか、何で微妙に巻き込まれたんだ私は。
「おい、お前何で梶原をマネージャーなんかにしてんだ。正気か」
「うん、本当は今すぐ辞めてもらいたいんだけどね。あはは、世の中って上手くいかないよね。皆滅びればいいのに。あ、俺と高木さん以外」
「どんだけ病んでんだお前は」
俺がちょっと目を離した隙に…!と叫ぶ泣き黒子の人。うん、気持ちは分かる。幸村くんどうしたの。それから、いちいち私の名前を出さないでいただきたい。
「つーか高木って誰?」
「せや、幸村の彼女?」
「うん、そうなんだけどね」
「はあああああ!?幸村くん!?何言ってんの!?」
「あー!丸井くんだー!」
「あ、ジロ君……じゃなくて!幸村くん!勝手な事言うなよぃ!」
ぎゃいぎゃいと喚く丸井。うん、子犬みたいで可愛い。こっち来ないかな。
というか、話題は私なのに割り込めないもどかしさ。いたたまれない。
「紹介するよ、うちのマネージャーの高木柚葉」
「え、あ、よろしくお願いします」
「高木さん、こっちは、左から跡部に樺地、忍足に向日……ああもう面倒臭い。どうでもいっか」
「幸村くんん!」
今日はどうしたの!何でそんな投げやりなの!
「そうよぉ、精市。高木さんなんてほっとこぉ?氷帝も立海もぉ、飴芽がサポートするからぁ」
「練習始めよっか」
「幸村!?」
「えっ呼び捨て?何かあれだね、急に呼び捨てってときめくね」
「精市ぃっ!もぉ、照れなくて良いのっ」
「あ、梶原さんは今日氷帝の方のマネージャーしてあげて。立海は高木さんがしてくれるから」
「はああああ!?てめっ、幸村!ふざけんな!」
何が何だか分からなくなってきた。
幸村くんが梶原さんを無視して、梶原さんはポジティブで。幸村くんが出した指示に泣き黒子……跡部くんが怒鳴って。
「何?梶原さんの話じゃ、氷帝のテニス部は全員梶原さんが好きなんだよね?じゃあ良いじゃないか」
「はー!?初耳初耳!」
「せやで、梶原が勝手に勘違いしたんやーん」
「もー、皆ってばまぁた照れちゃってぇ!」
……あれ。
梶原さん、氷帝の人達は皆梶原さんの王子様だって言ってた、よね。
あれ、まさか。梶原さんの勘違い、なのか。うそお。
「……これでは終着しないだろう。ここは平等に、じゃんけんはどうだ?」
「あ、蓮二。ああ、まあ良いかもね」
「ふん、良いんじゃねえの」
柳くんが提案した。流石データマン。関係ないか。
「かかか神の子に不可能はない。絶対勝つきゃら」
「噛むな」
「じゃんけん、ぽん!」
何故か緊張している幸村くんは、拳を勢いよく振り上げた。跡部くんもそれに倣う。
そして、振り下ろす。
「……あ」
「よし」
幸村くん、グー。
跡部くん、パー。
幸村くんはあっさり負けた。
というか、これ何の勝負なの?今更だけど。
「……精市はじゃんけんが無駄に弱いからな」
「なら何故提案した!」
「やだやだやだ!柚葉ー!行かないでー!」
「柚葉は俺等の事好きじゃろ!?裏切るんか!?」
「え?なに?なんなの?」
肩を落とす柳くん。地面に倒れた幸村くん。泣き喚く丸井。私の肩を掴む仁王。戸惑う私。
それを見ていた跡部くんは、ふっと笑うと私の頭を鷲掴んだ。
「と言うことで、今日の練習試合、この女にはうちのマネージャーをしてもらう」
跡部くんは、高く笑った。
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