君がいるから
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そっと目を開けると、見えたのは白色の天井だった。くらくらとする脳にはその色が眩しくて、少し目を細める。
「……あれ」
辺りを見回し、この場所が保健室であることと、私はベッドに寝かされていたことを知る。何で私、保健室にいるんだろう。
キョロキョロとベッド周辺を見回して、ようやく白い空間の中に赤々とした色があることに気付いた。
赤。赤色。私の大好きな色。
「……丸井……」
そう、大好きな丸井。丸井はベッド近くの椅子に腰をかけて俯いていた。驚いて目を擦るけれど、幻覚でも何でもないようだ。
少しだけしか離れていなかったのに、丸井が傍にいることが酷く久しぶりに感じる。
「……丸井」
「……倒れた」
「え?」
「屋上で倒れて、仁王が此処に運んだ」
ようやく口を開いてくれた丸井は、ずっと黙り続けていたからか舌足らずな口調だった。
そっか、倒れたのか。多分昨日眠っていないうえに何も食べてないからだと思う。仁王には迷惑をかけてしまった。
「……って、あれ……丸井、ずっと此処にいてくれたの?」
「……うん」
「……そっか。ありがとう」
相変わらず俯いたままだけど、それでも私と話してくれることが嬉しい。起きるまでずっと待っていてくれたなんて、その優しさが心に沁みる。
もう一度ありがとうと言うと、丸井はこくりと頷いた。
「……ねえ、何であんなに怒ってたの?私、何かしちゃったかな」
まだいつもと違う雰囲気の丸井に、窺うようにそう聞いた。いつまでもこんなの嫌だし、今しか聞ける時がないかもしれない。
丸井は少し肩を揺らすと、また口を閉ざした。どうしよう、困ってしまった私は丸井の手を握った。
「丸井、言いたくないなら、」
「……何で」
「え?」
私の言葉を遮るように丸井が口を開いた。握ったままの丸井の手が震えていたから、驚いて丸井の顔を見る。そしたら、丸井は。
泣いていた。
「何で、何で俺に助けてって言わないの」
「え?」
「倉庫に閉じ込められたって、仁王から聞いた。なのに、俺に何も言わなかった。梶原に暴言吐かれてた時も、何も言わなかった。俺に、頼らなかった」
悲しみというより、嫉妬にも近い表情で涙を零す丸井。大粒の涙が私の手にぽたりぽたりと落ち、滑るように濡らしていく。
丸井、と名前を呼んだら、丸井はもたれるように私の肩に頭を置いた。赤い髪が首筋をくすぐる。
「幸村くんに助けられてるし。幸村くんと何か約束してるし。なあ、何で?」
丸井が少しだけ顔を上げた。鼻がくっつきそうな距離で、丸井は私を見つめる。涙で潤むその瞳が、私を映す。
「柚葉の一番は、俺じゃないのかよぃ」
ぐずぐずと泣きながらそう言った丸井は、きっとどこまでも真剣で。私は丸井の背を撫でるように腕を回す。
「ごめんね、丸井」
「……俺は、誰よりも柚葉のこと好き」
「うん、知ってるよ」
丸井、大好き大好き大好き。
今度からは丸井だけを頼るからね。ありがとう。心配してくれて。私のことで色々考えてくれて。
そう言うと、丸井は嬉しそうに頬を私の手に擦り寄せた。可愛いなあ、本当に。
「大好き、丸井」
「当たり前だろぃ!」
ふにゃりと笑った丸井は、すっかりいつもの笑顔で。強い強い愛しさを感じた。
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