君がいるから

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放課後、あまり使われない用具倉庫に呼び出された私。誰にかというと、梶原さんだ。だから何故部活に行かない。

先日の教室での件もあるし、行くのをかなり迷ったけれど、言い逃げの形をとられたので大人しく行くことにしたのだ。

「……で、何?」

「何じゃねーよ」

どんどん言葉遣いが悪くなっていく梶原さんに驚く。目つきまで悪い。怖いよ来るんじゃなかった。

「飴芽、気付いたんだよね。あんたがブンちゃん達を脅してるってことにさあ」

梶原さんは推理をする探偵のように私を指差す。確信をもったその蒼の目は、私への軽蔑がはっきりと浮かんでいた。

……いや。脅してるって何だ。女が男を脅すって何。私そんなに強くないぞ。ていうか丸井どんだけ弱々しいイメージなんだよ。

「……勘違いです」

「勘違い?何がぁ?だってあんたが脅してなかったらブンちゃん達が飴芽に振り向かないわけないし」

ポジティブ。近年稀に見るポジティブだ。丸井達が梶原さんに冷たく当たるのは、梶原さんがテニスの邪魔をするからだ。それだけははっきり言える。

でも、それを私が口にして良いのだろうか。「丸井達の邪魔になるから近寄らないで」なんて言えるわけない。

私はあくまで丸井達の友達。彼女でも親でもない。口出しする権利も束縛する権利もないのだ。

ああでも、丸井は困ってるんだもんなあ。丸井を困らせないで、くらいは言っても良いかも……。

「てことだから、あんた消えてね」

「は?」

考え事をしていたら、いきなりそう言われ、次の瞬間に強い衝撃。

気付いたら地面に倒れていて、今突き飛ばされたのだと知る。

「ちょ、何す……」

「ここ、人全く来ないんでしょー?だったら、死ぬまでここに閉じこめられとけよ」

言うが早いか、梶原さんは素早く用具倉庫から出る。そして外から聞こえたのは、がちゃりという嫌な音。

「鍵、かけられた……?」

うそん。冗談じゃない。ここ、本気で人来ないんだよ。ちょ、正気か。え、待……。

「野垂れ死ね、ブス」

梶原さんはそう吐き捨てると、小走りで去って行った。完全に足音が聞こえなくなってから、ようやく倉庫の暗さが怖くなってきた。
やばい。携帯ない。本気で怖い。

「有り得ない有り得ない有り得ない……!」

まじで死ぬど!

パニックになって扉を殴るけれど反応はない。半泣きになりながら丸井の名前を呼ぶ。けれど丸井は今部活中な上、コートから離れた倉庫になんて来ない。やばい泣きそう。困った顔の仁王と目が合ったけどそんなことはどうでもいい。どうしようどうしよう。助け来るよね?流石に本当に餓死させるつもりないよね?こんな分厚い扉壊せないしあああああ。

って、あれ。

すっと冷静になってみてから、ゆっくりと後ろを振り返る。

「………」

「………」

そこには、暗い中でもキラキラと輝いて見える銀髪。ぱちりと目が合い、無言が続く。

暫く見つめ合った後、私は半目になりながら口を開いた。

「何でいるんだ、仁王」

かつてない程冷めた目の私。何故こいつがここにいるんだ。この時の仁王の気まずそうな顔と言ったらなかった。

「……さっき目合ったじゃろ」

合ったけれども。パニックのあまりにあっさりと流してしまっていたけれども。いや、本当に何でいるんだこの人。

「今日は暑いからここで寝とったんじゃ。部活行きたくなかったからの」

「えー……」

「そしたら柚葉とあの女が来て、柚葉がボロクソ言われて閉じこめられて、今」

つまりサボってたら巻き添え食らったんだね、仁王は。申し訳ない。でも部活は出よう。

一人きりよりは二人の方が断然良いのだけれど、何の解決にもならない。一応確認したけど、仁王も携帯を持っていないらしいし。

「最悪……」

「落ち着きんしゃい。大丈夫じゃ。ここは俺のサボリスポットじゃからの。その内テニス部の誰かが俺を探しに来る」

え。仁王の言葉に驚き、彼の顔を素早く二度見する。仁王は眠たそうな顔だったけど、嘘を言っている風には見えない。

ということは、仁王の言う通り誰かがここに来る。

「……良かった!」

「ん?」

「また丸井に会えるよおお!」

「……あー」

感極まって飛び跳ねると、埃が舞って仁王に嫌な顔をされた。申し訳ない。

でも本当に良かった。こんな場所で、しかも仁王と一緒に死を迎えるのかと本気で思った。どうせなら丸井とが良い。切実に。

「まあ折角の機会じゃ。誰かが来るまでゆっくり話すぜよ」

「だねー。暇だし」

「じゃ、質問」

お、珍しいな。仁王が私に質問なんて。仁王は他人に淡泊だから。少し驚きつつ、仁王の次の言葉を大人しく待つ。

仁王は本当に不思議そうな顔で首を傾げ、口を開いた。

「お前さん、何でそんなに丸井のこと好きなんじゃ?」

ぴたりと固まった私を、仁王は愉快そうに見つめた。



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