君がいるから
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屋上にて。
屋上の鍵を内側から掛け、ひゅーひゅーとか細い息を落ち着けながら私は目の前の少年を見た。
何でこの子、「良い運動したぜ!」みたいな爽やかな雰囲気なんだろう。私を見ろ。死にかけだぞ。
あああ、というか何で屋上に来てるんだ。本当なら、今はもう丸井に会える時間なのに。丸井に会いたい……。
「すみません、無理矢理連れて来て」
「……いや、お気になさらず……というか、どちら様?」
「あれ、丸井先輩から聞いてません?」
「丸井!?」
丸井という単語に、へばっていた体が反応した。あまりに大きい声を出したので、少年にびっくりされた。ごめん。
「えーと、先輩は丸井先輩のことをめっちゃくちゃ可愛がってる人っすよね?」
「んー。間違ってはいないね」
何か丸井が犬か猫みたいに思えるけどね。というか、どういう話をしてるんだ丸井は。
「あ、俺、切原赤也っす!二年のテニス部レギュラー!」
「おお、丸井の後輩かあ。あ、私高木柚葉です」
「知ってます!一回柚葉先輩と話してみたかったんすよ!」
うおお、いきなり名前呼びだ。何でも良いけど。この子も丸井には及ばないけど、可愛い。さすが丸井の後輩だね!
って、和んでる場合ではない。
「あのさ……梶原さん、いいの?」
「梶原?……ああ」
いきなり低くなった声に絶句する。切原くんは、不機嫌を隠そうともせずに地面を拳で殴った。
どうしたんだろう、梶原さんと何かあったのかな。いや、でも梶原さん昨日マネージャーになったとこなのに。
「あの女、俺等に話しかけるばっかりで仕事一つもしねぇんすよ!それを注意したら何て言ったと思います!?「お姫様だから仕事なんてしない」ですよ!?何の為にマネージャーなったんだよ!」
「どうどう」
うーん、まああの梶原さんなら言いそうかもしれない。というか、お姫様発言が多い。もしかして本当にお姫様なのか。
まあ、氷帝ではかなり良い扱いされてたみたいだし……。
「氷帝の奴ら、頭おかしいっすよ!あんなのただの男好きじゃないっすか!本当に氷帝の奴らがあの女を好いてたのか知らねえけど!」
「嫌いだったらすぐにマネージャー辞めさせるでしょ」
「……ですよね。でもあの女、立海にすんげぇ寄付してるらしくて、うちのマネージャー辞めさせられないらしいっす」
「うひゃ」
本当にお姫様じゃないか。というかお嬢様か。というか一日で辞めさせる云々の話が出るってどんなだ。
「はー、もう部活行きたくねえ……今日もサボっちまったし」
あ、サボったんだ。だからあの時間に靴箱にいたんだね。いや、何で三年の靴箱にいたんだ。迷子か。
あれ、じゃあ梶原さんもサボリ?あ、でも私を待ってたってことは、私のせいでサボったことになる?やだな。
「まあ、元気出しなよ。おにぎりあげるから」
「まじっすか!?」
「うん」
勿論、丸井にあげる特大おにぎりではなく、私のお昼の普通サイズのおにぎりだ。丸井にあげる為に持って来た物は何があっても誰にも譲らない。
というかおにぎり一つでえらい喜びようだな。可愛らしい。弟に欲しい。
「美味いっす!」
「良かったねー」
もう一時間目も終わる時間だ。またサボってしまった。
丸井と会う時間が減ったけど、たまにはこういうのも良いかな。一年に一回くらいは。
その後、教室に戻ると半泣きの丸井に抱き付かれ、ぐずる仁王にしがみつかれ、非常に困った。
何でも、私と梶原さんがもめていたと誰かに聞いたらしい二人は、梶原さんは教室にいるのに私がいつまで経っても戻って来ないので、どこかに閉じ込められたのかと思っていたらしい。
しかも、さっきまで授業をさぼって校内を探し回っていたらしい。
可愛い奴らめ。とは言えない。
何故なら授業をサボったことがバレた私達四人(切原くんも)は、また真田くんに正座させられたからだ。
とりあえず誰を恨んだら良いのか。
微妙に冷える廊下で丸井が風邪を引いたら大変なので、私のセーターを丸井の首に巻きつけながら呆然と考えた。
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