君がいるから

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衝撃的、だった。

「ええっと、氷帝から転校してきた梶原飴芽でーす!氷帝ではぁ、姫様って呼ばれてましたっ。テニス部のマネージャーをするつもりなのでぇ、テニス部の人は仲良くしてくださぁい!」

な、何だこの子は。
一番後ろの席の私にまで届く甘い香水の匂い。ふわふわの灰色の髪に蒼い瞳。え、何人?

下着が既にチラチラと見え隠れするくらいの短いスカート。胸元を大きく開けたワイシャツ。

極めつけは甘い声と語尾を伸ばす喋り方。誰にしてるのか分からない上目遣い。

何を見ても面白すぎる……!(失礼)

「すごいねすごいね!仲良くなれるかな!?」

「仲良くなりたいの!?」

「初めて見るキャラだよ!」

隣の席の花梨ちゃんに興奮冷めやらぬといった感じで話しかけると、目をひん剥かれた。

いや、別に無理に仲良くなろうとは思わないけど。でも一回くらいは喋ってみたいな。

「あ、それとぉ」

もう一度梶原さんの方を見た時、未だ教卓の横に立っていた梶原さんは不機嫌そうに口を開いた。

「飴芽ぇ、女が大っ嫌いだから、話しかけてこないでよねぇ!」

ぴしり。

私が固まった。いや、私だけじゃなく教室中が固まった。

え、今の間違いなく私に言ったよね。えええ何かショック。でも、女嫌いなら仕方ないか。過去に何かあったのかもだし。

別に落ち込んでないのに、花梨ちゃんに肩を叩かれた。

「え、ええと、梶原の席はあそこだ」

先生が困ったようにしながら指を差したのは、窓際の一番後ろ。つまり、丸井の隣で仁王の後ろ。

丸井、転校生来るの嬉しそうにしてたからなあ。仲良くなれると良いね。母親のような気持ちで丸井を見つめる。

「丸井くん?飴芽ぇ、氷帝でテニス部のマネージャーしてたからぁ、ジロちゃんによく話聞いてたよぉ」

「……あっそ」

どうした丸井。

素っ気なさすぎてびっくりしてしまった。不機嫌そうな顔に苛立った声。いつもふにゃふにゃ笑ってる分、驚き倍増だ。

仁王も眉を寄せて前を向いている。ここからじゃよく見えないけど、本当に不機嫌だ。

「下の名前はぁ、ブン太くんだよねぇ?飴芽、ブンちゃんって呼んじゃおっ!飴芽のことも名前で呼んでねぇ」

「やめてくんね?馴れ馴れしい」

「えっ、もー……ブンちゃあん。照れないでよぅ!」

ハラハラしながら丸井と梶原さんを見つめる。参観日のお母さん気分だ。

丸井、どうしたんだろう。朝はあんなに機嫌良かったのに。もしかして梶原さんが苦手なのか。

でも丸井は深く関わってない人を嫌ったりする悪い子じゃないし……。

首を傾げていると、丸井がちらりとこちらを見た。その表情は、捨てられた子犬みたいなもの。この表情の丸井は、困っている。

丸井が困っている。そして私に助けを求めている。

「お母さんが今助けに行くからね!」

「ぶはっ」

言うが早いか椅子から立ち上がると、先生の前だろうと関係なく(どうせ一時間目は自習だ)、丸井の腕を掴んで逃走した。

ちなみに、吹き出して笑ったのは仁王だ。仁王も私の掴んでない方の丸井の腕を掴んで教室を飛び出した。

三人で手を繋いで縦に並んで猛スピードで走っているので、端から見たら不思議というか奇妙な光景だろう。

梶原さんの怒鳴り声が聞こえた気がしたのは気のせいだと思いたい。怖すぎる。でも私は保身よりも丸井の方が大事なのだ。

廊下を逃走する私達が真田くんに捕まり、説教の後廊下に正座させられるのはこの十秒後のことである(かなり見せ物になり、幸村くんらしき人が大笑いしていた)。



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