小さな物語
□臆病
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知らない女の部屋で目が覚める。
今日もやってしまったか。
自分のふがいなさに少し苛立ちを覚えた。
女の横をすり抜けベッドから降りる。
突如聞こえる女の声。
いつもの台詞を待ち受けた。
「ねえ、私を愛人にしてよ」
「また愛人作ってきたのね」
「てめーには関係ねーだろ」
「愛人に現抜かして仕事が進まないから言ってるのよ」
「ツナにやらせればいい」
「十代目に無駄な仕事やらせないでくれる?」
現なんか抜かしちゃいない。
お前への愛に溺れるばかりだというのに。
お前の口から出る名前はツナばかりだ。
俺の名前なんて一度も出てはこない。
いけないことだとはわかっている。
こんなんで振り向く筈がないと。
わかっていても止まらない。
いや、わかっているからこそ止まらないのかもしれない。
「あなた、好きな人がいるって聞いたわよ」
「っ・・・!!・・・どこで聞いた」
「どこでもいいでしょ?その反応返すってことは居るのね。好きな子居るのにどうして愛人なんか作っているのよ」
「それは・・・」
「その子に振られたら嫌だから愛人をたくさん作っているわけ?」
「・・・・・・違う・・・」
「その子には興味ないって振りして自分を守ってるだけじゃない」
「違うつってんだろ!!」
違う。
違う。
何が違う?
わからない。やめてくれ。
そうじゃないんだ。
お前が好きなだけなんだよ。
ああ、でも彼女の言う通り臆病なのかもしれない。
俺の足が愛人のもとへ行こうとするんだ。
臆病
(彼女に嫌われる理由をまた一つつくってしまった)