君がいるから

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仁王を探しに来たらしい幸村くんに救出され、私達は外へと出た。久しぶりに綺麗な空気を吸った気がして、清々しくなる。

「幸村くん、本当にありがとう!」

「……ううん。怪我はない?」

「うん!」

幸村くんには梶原さんに閉じ込められたことを言わないつもりだったのだけれど、仁王があっさりと言ってしまった。

幸村くんは少し唇を噛んだ後、私達に優しく笑ってくれた。その笑みはどこか儚げで、私は首を傾げる。けれど仁王と幸村くんがテニスコートへと歩き出したので、私は二人に手を振った。

「じゃあ私は帰るね。部活頑張って」

「何じゃ、帰るんか」

「え?うん」

「折角だから見ていったら?」

校門に向かって歩こうとしたら、きょとんとした仁王に止められた。そして幸村くんが私に笑いかけながらテニスコートへ来るよう促す。

どうしよう、折角だから見ていこうかな。丸井の頑張ってる姿も眺めたいし。梶原さんと会ったら気まずいけど。

「じゃ、見とく」

「おー、そうしんしゃい」

仁王と幸村くんの後ろを歩き、テニスコートへと辿り着いた私は真っ先に丸井を探す。

丸井は桑原くんと一緒に楽しそうにテニスをしていた。あ、切原くんもいる。切原くんがテニスしてるのは初めて見るから少し感慨を抱いた。

「高木さん」

「ん?幸村くん、何?」

「丸井ばっかりじゃなくて、」

幸村くんはコートへ足を踏み入れながら私を振り返った。そして、ふんわりと柔らかく微笑む。綺麗な笑みだった。

「俺のことも見ててね」

私が目を見開いたのを見て幸村くんはまた微笑み、そのまま私に背を向けてコートへと入って行った。

何だ、今のは。あんまりにも綺麗な表情だったから、心臓が止まるかと思ってしまった。もしかして幸村くん、応援してもらいたかったのかな。言われなくても応援するけれど。

「あ、柚葉だー!柚葉ー!」

「うおおお丸井ー」

「柚葉せんぱーい!」

「おい、赤也邪魔!」

私に気付いたらしい丸井は、ぶんぶんとラケットを振りながらにかりと笑った。切原くんも同様。というか喧嘩始めたのだけれど、あの二人。まあ喧嘩する程何とかって言うし。

「頑張れー!」

少し大きな声で言うと、丸井は嬉しそうに笑ってくれた。ああ、やっぱりこの笑顔が大好きだ。

丸井の愛しさに目を細めていると、いつの間にか隣に誰か立っていた。その誰かは私を射殺すように睨み付けている。

言わずもがな、梶原さんである。うわああ何か気まずいよ。

「……あんた何でいんのよ」

「えーと。幸村くんが助けてくれたよ」

「はあ!?精市までたらしこんだわけぇ!?」

「へ?うわっ」

がしりと胸倉を掴みあげられた。えええ何この状況。だから私梶原さんより背高いから何か複雑な気分になるんだよ止めて。

ガルルルと威嚇してくる梶原さん。何だこの子。面白いけど怖いよ。ていうか胸倉掴みあげてる姿を見られても良いんだろうか。

ここテニスコートだからね。梶原さんの王子様(仮)達がいるんだよ。それでも良いのか。私の心配通り、誰かが私達へと近付いてきた。

「……やめなよ」

「丸井……!」

「ん?」

丸井じゃねえええ。何か似たようなことが前にもあった気がする。あ、切原くんか。

というか普通に幸村くんだった。間違えてしまって申し訳ない。私がつい丸井だと言ってしまうのは、丸井だったら良いのにというただの願望だ。

ちなみに丸井はこちらを呆然と見ている。うん、丸井は大人しくしてたらいいよ。怪我しちゃ危ないからね。

「せ、精市ぃ……飴芽、高木さんに酷いこと言われて頭にきちゃってぇ……」

「酷いこと?君の顔が気持ち悪いってこと?それとも存在が不愉快だってこと?それは酷いことじゃないよ。事実だから」

ひええ。幸村くんってまさかの毒舌なのか。先程の優しくて綺麗な笑みなど浮かべもせず、梶原さんを睨む幸村くん。怖い。

おどおどしながら、唇をあひる口にして幸村くんを上目遣いで見る梶原さん。何故今その表情を。

「もー、精市はヤキモチ妬きなんだからぁ!大丈夫、もう高木さんになんて構わないで精市を見つめとくからねぇ?」

そうだった。

梶原さんはポジティブな上に半端じゃなくメンタルが強いのだった。凄いなあ、梶原さん。私なら泣きながら走り去るよ。

感心しながら二人を見つめていると、私の視線に気付いたらしい梶原さんが私を睨んだ。

「高木さぁん。貴女、皆の迷惑なのぉ。今すぐ帰ってぇ?それで二度と来ないでぇ!貴女みたいなブス、皆の気分を悪くするだけなのよぉ!」

「えっ……」

またブスと言われた。けどもうそれは良い。ブスじゃないとは言えない容姿なのだ、私は。ちゃんと自覚している。

それよりも。迷惑、なのか。いやでも幸村くんが誘ってくれたような気が。どうしよう。今日のところは大人しく帰宅するべきだろうか。

オロオロしていると、幸村くんが一歩梶原さんに近付いたのが分かった。はっとして顔を上げ、目を見開く。

幸村くんが、梶原さんへ向けて手を振り上げていたから。そしてそのまま。

「、あ」

幸村くんが、梶原さんを叩いた。

乾いた音がテニスコートへと響く。思わず口を押さえて息を飲んだ私。私達三人に、元から集まっていた視線が更に集中する。

「幸村くん……!?」

「せ、精市ぃ?」

「高木さんの侮辱は許さないよ」

冷たい声。息を飲んだのは私ではなくて梶原さんだった。赤く腫れた梶原さんの頬。まずいんじゃないだろうか、これは。



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