君がいるから

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「ブンちゃあん、雅治ぅ!一緒にご飯食ーべよっ」

「断るナリ」

「つーか名前で呼ばないでくんね?」

あれから一週間。梶原さんは相変わらず丸井達にアタックしている。けれど、丸井達はどんどん梶原さんに対して冷たくなるばかり。

誰とでも仲良くなれる丸井だけど、梶原さんだけは無理だと言っていた。

この間私の髪を引っ張ったこと(切原くんがバラした)、仕事を全て平部員に押し付けること、練習の邪魔をすること。

仲間を大切にし、テニスを大切にする丸井からしたら梶原さんのしていることは許されないそうだ。

丸井だけじゃない、仁王も切原くんも。三人の話によれば、他のテニス部の人達も皆同じらしい。

「……ごめんね、丸井。何もしてあげられなくて」

放課後、日直の丸井の仕事を手伝いながらぽつりと口を開いた。

すると丸井は日誌を書いている手を止め、きょとんとする。けれど、すぐに可愛らしく笑ってくれた。

「ん、柚葉が気にすることじゃないって。柚葉は俺のこと甘やかしてくれたらそれでいい」

「丸井……!生まれてきてくれてありがとう!」

「え?俺今日誕生日?」

丸井の言葉があまりにも感動的だったので思わず言ってしまった。丸井はまたへらりと笑う。

でもその笑みもどこか元気がない。大好きなテニスが思う存分出来ないからだ。そう思うと、ぎゅうと胸が締め付けられる。

「あー……最近寝不足」

「うん……隈あるよ」

「最近授業中寝れねぇからなぁ」

授業中は寝るものではない。けれど、朝が弱いのに、かなり早い時間の朝練を頑張ってる丸井は寝ずにはやってられないだろう。

寝れない理由は、梶原さんがずっと丸井と仁王に話しかけるから。寝たふりをしても叩き起こされてしまうのだ。

「席替えがあったら良いのにね」

「ん。あ、そしたら柚葉の隣が良いな」

「え、ほんと?」

「うん。安心するから」

へにゃりと微笑む丸井が本当に愛しくて、丸井のペンを持っていない方の手をきゅっと握った。

丸井は少しだけ驚いたようにしたけれど、すぐに安心したように口を緩める。

「お前手ぇ冷たい」

「丸井もね」

「へへっ」

悪戯っ子のように笑った丸井は、持っていたペンを置くと、私の手を握ったまま机に突っ伏した。

「眠い?」

「ん、ちょっと」

「十分したら起こすよ」

「さんきゅ」

おやすみ三秒の勢いで、そのまますやすやと寝息をたてだした。

家でもあまり眠れなかったのだろうか、ぐっすりと言うよりぐったりと眠っている。

くしゅくしゅと柔らかい髪を撫で、握られたままの手を少しだけ強く握り返した。

「……おやすみ、丸井」

現実は、少しだけ丸井には厳しいらしい。だから、今だけでもゆっくり寝ててね。

夢の中にいる丸井は、少しだけ微笑んだ。夢の中では丸井が楽しい思いをしていると、私は嬉しい。



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