君がいるから

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「おい、ブス」

昨日結局反省文やら何やらを提出していたら放課後になってしまい、丸井と仁王は部活にも出られずに終わった。

そして早朝。学校に着くと待ち構えていたかのように靴箱に立っていたのは、梶原さん。

ちなみに、今日は丸井達は朝練でいないのだ。授業が始まる頃にはお腹が空くだろうから、特大おにぎりを作ってきた。
そんなことはひとまず置いといて。

今、「おい、ブス」って言われた?え、梶原さんに?え?え?昨日の語尾伸ばしキャラは?

「……か、梶原さん?」

「あのさぁー。あんたみたいなブスが、何でブンちゃん達と仲良いわけぇ?」

「え」

同じクラスだからという理由じゃだめなんだろうか。丸井とも仁王とも、同じクラスになってから仲良くなったし。

というが、実はそれまで丸井の存在知らなかったし。

「えーと……」

「いーい?忠告しといてあげるわ。二度とブンちゃん達に近付かないで」

梶原さんは人差し指を私の目の前に突き立てたかと思うと、いきなりうっとりとした表情になった。

表情豊かだな。

「飴芽はぁ、皆のお姫様なの!昨日美形揃いのテニス部のマネージャーにもなったし?もう此処も飴芽のお城よ!」

なるほど、テニス部のマネージャーになったら学校がお城に見えるのか。どんな作用だ。

というか、此処「も」?

「氷帝ではぁ、もうみーんな飴芽に夢中になったしぃ?本当、飴芽ってば愛されすぎぃ!」

「じゃあ氷帝にいれば良かったんじゃ……」

「はあ!?あんたバカ!?王子様は色んな場所にいてこそのものでしょ!?氷帝の皆には転校のこと黙ってたからぁ、今頃飴芽のこと探し回ってるだろうなぁー……」

よくわからないけど、とりあえず王子様とやらを作りに立海に来たらしい。すごい行動力だなあ。

まあ要約すると、氷帝には不特定多数の恋人がいるということで良いか(適当)。

「だ・か・ら!あんたは邪魔なの。テニス部の皆に近付かないでよね。ブンちゃん達、すっごく迷惑してるんだから」

「丸井は迷惑だったら迷惑だってハッキリ言うよ」

「はあ?本っ当うざいわね!大体何この髪!目立ちたいわけ?似合ってないんだよ、ブス!」

「地毛なんだけど……あいたたた」

引っ張らないで抜ける抜ける。怒った時の丸井でもこんなことしないぞ。

髪は私の一番のお気に入りなんだから抜かないで痛い痛い。

大体、自分より20センチ近く背が低い女の子に髪引っ張られるなんて。どんな状況だ。

「……何してんだよ」

いい加減泣きそうになってきた時、私の後ろから低い声が聞こえた。

その瞬間にばっと髪を掴む手が離され、私はよろつきながら半泣きで声が聞こえた方を振り返る。

「……丸井……!」

「え?」

丸井じゃねえええ。

そこにいたのは、黒髪のふわふわな少年だった。多分年下。うわ、恥ずかしい。キョトンとしてるよ少年。

「ごめんなさい。間違えました。それと、ありがとうございました」

とりあえず助けてもらったので、腰を九十度に折り曲げて謝罪とお礼を言った。すると少年は慌てたように両手を上げた。

え、別に手を上げろなんて言ってないけど。そう思いつつ顔を上げると、少年は心配そうに首を傾げた。

「いや……あの、頭大丈夫っすか?」

「一応頭は正常かと……」

「いや、髪の毛っすよ」

「………」

私馬鹿なのか。話の流れで分からなかったのか。最早困っているじゃないか。

とりあえず苦笑いを浮かべると、いきなり誰かに押しのけられて私の体は地面に沈んだ。痛い。

「赤也ぁ!どうしたのぉ?ここ、三年の靴箱だよぉ?」

今まで黙っていた梶原さんだった。

梶原さんは少年に抱きつくと、甘えるようにすり寄る。え、カップルなのかこの二人は。

「……触んじゃねーよ」

「もう!赤也まで照れちゃってぇ!そんなに照れても可愛いだけだぞ!」

「……っ、気持ち悪いんだよ!」

うひゃあ。修羅場なのだろうかこれは。それにしても、気持ち悪いは言い過ぎだ。梶原さんもフリーズしてしまっている。

「あ、あの……」

「あ……すみません。てか、大丈夫っすか?」

どんだけ心配されるんだ私は。でも少年は本当に心配してる雰囲気なので、膝を擦りむいただけで他は何もないと頷く。

「……つーか、ここ気分悪いんで屋上でも行きましょ」

「へ?」

「あっ!赤也ぁ!」

腕を引っ張られ、猛スピードで階段を駆け上り始めた少年と私。それと、乙女走りで追いかけて来る梶原さん。

何に巻き込まれたんだ、私は。



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