君がいるから
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「で、どうしたの?」
一時間の正座から解放され、廊下で足を伸ばしながら(道行く人の迷惑である)、丸井に梶原さんへの態度について尋ねた。
丸井は拗ねたように口を尖らせている。可愛い。仁王も同じ表情をしていた。怖い。
「……だって」
「うん?無理に言わなくて良いんだよ?」
「んーん……あいつ、柚葉に酷いこと言った」
「うん?」
ぱちくりと目を瞬かせると、丸井は悔しそうな顔で下を向く。どうしたんだこの子。
というか、酷いこと?何か言われたっけ。いや、私梶原さんとまだ話してもないよな。
「女嫌いだから話しかけんなって……あれ、柚葉に言ってた」
「ああー。いや、気にしてないよ。女嫌いなら仕方ないし」
「やだ。柚葉が気にしてなくても、俺が気にする」
どうしよう、可愛い。何でこんなに良い子に育ってるんだろう。丸井のお母さんありがとうございます。
とはいえ、本当に丸井の言葉は嬉しいけど、梶原さんはテニス部のマネージャーをするらしいし、私のせいで不仲にするわけにはいかない。
マネージャーとの関係が悪くなって後々苦しくなるのはきっと丸井だ。
「丸井。丸井が私の為に怒ってくれたってだけで嬉しいよ」
「……でも」
「丸井、ありがと!もう大丈夫だよ!」
無理やり丸め込んでみる。丸井だけに。全然上手くない。
基本的に丸井は、私がお礼を言うと何でも引き下がるのだ。
この間私が他校の人にしつこくナンパされた時、丸井がその人を殴ろうとしたので慌てて「助けてくれてありがとおおお!」と言うと、機嫌良さげに引き下がってくれた。必死さが伝わったのかもしれない。
もしかすると、丸井は単純なのかな。今だって、もういつものふんわりスマイルだし。
「ん。柚葉が喜んでくれたなら良かったぜぃ!」
「うん、ありがとう。後で梶原さんに一緒に謝りに行こうね」
「おう!」
素直で良い子だ。梶原さんには悪いことをしてしまった。けど丸井が私の為にしてくれたことなので、丸井を責める気は毛頭ない。ごめんね梶原さん。
仁王は相変わらず拗ねたような表情だけれど。どうしたんだこの人。ほったらかしにしてたからかな。
「……あの、元気、だしなよ」
「何の慰めじゃ」
「……いつまで拗ねてるの?え、てか仁王は何で付いて来たの?関係なくない?正座損じゃん」
「え……ひど……俺かて柚葉が酷いこと言われて怒ったんに……」
「ごめん。ありがとう」
そうか、仁王も何気に私の為に怒ってくれたのか。大したことじゃないのに皆大げさだな。嬉しいけど。
三人で梶原さんの所行こーねと約束し、ほのぼのしながら廊下で笑い合った。
するといつの間にか次の授業が始まっていたらしく、再び真田くんに説教され、正座させられた。真田くんも授業出なさい。
これ以上足が痛くならないよう、丸井の足の下に私の上着を敷いた。私の足の下には仁王の。仁王の足の下には丸井の。
上着をシャッフルする意味。
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