君がいるから

□3
1ページ/1ページ


「で、どうしたの?」

一時間の正座から解放され、廊下で足を伸ばしながら(道行く人の迷惑である)、丸井に梶原さんへの態度について尋ねた。

丸井は拗ねたように口を尖らせている。可愛い。仁王も同じ表情をしていた。怖い。

「……だって」

「うん?無理に言わなくて良いんだよ?」

「んーん……あいつ、柚葉に酷いこと言った」

「うん?」

ぱちくりと目を瞬かせると、丸井は悔しそうな顔で下を向く。どうしたんだこの子。

というか、酷いこと?何か言われたっけ。いや、私梶原さんとまだ話してもないよな。

「女嫌いだから話しかけんなって……あれ、柚葉に言ってた」

「ああー。いや、気にしてないよ。女嫌いなら仕方ないし」

「やだ。柚葉が気にしてなくても、俺が気にする」

どうしよう、可愛い。何でこんなに良い子に育ってるんだろう。丸井のお母さんありがとうございます。

とはいえ、本当に丸井の言葉は嬉しいけど、梶原さんはテニス部のマネージャーをするらしいし、私のせいで不仲にするわけにはいかない。

マネージャーとの関係が悪くなって後々苦しくなるのはきっと丸井だ。

「丸井。丸井が私の為に怒ってくれたってだけで嬉しいよ」

「……でも」

「丸井、ありがと!もう大丈夫だよ!」

無理やり丸め込んでみる。丸井だけに。全然上手くない。

基本的に丸井は、私がお礼を言うと何でも引き下がるのだ。

この間私が他校の人にしつこくナンパされた時、丸井がその人を殴ろうとしたので慌てて「助けてくれてありがとおおお!」と言うと、機嫌良さげに引き下がってくれた。必死さが伝わったのかもしれない。

もしかすると、丸井は単純なのかな。今だって、もういつものふんわりスマイルだし。

「ん。柚葉が喜んでくれたなら良かったぜぃ!」

「うん、ありがとう。後で梶原さんに一緒に謝りに行こうね」

「おう!」

素直で良い子だ。梶原さんには悪いことをしてしまった。けど丸井が私の為にしてくれたことなので、丸井を責める気は毛頭ない。ごめんね梶原さん。

仁王は相変わらず拗ねたような表情だけれど。どうしたんだこの人。ほったらかしにしてたからかな。

「……あの、元気、だしなよ」

「何の慰めじゃ」

「……いつまで拗ねてるの?え、てか仁王は何で付いて来たの?関係なくない?正座損じゃん」

「え……ひど……俺かて柚葉が酷いこと言われて怒ったんに……」

「ごめん。ありがとう」

そうか、仁王も何気に私の為に怒ってくれたのか。大したことじゃないのに皆大げさだな。嬉しいけど。

三人で梶原さんの所行こーねと約束し、ほのぼのしながら廊下で笑い合った。

するといつの間にか次の授業が始まっていたらしく、再び真田くんに説教され、正座させられた。真田くんも授業出なさい。

これ以上足が痛くならないよう、丸井の足の下に私の上着を敷いた。私の足の下には仁王の。仁王の足の下には丸井の。

上着をシャッフルする意味。



.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ