妄想小説

□夜祭り
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「り、リクオ様っ。そろそろ止まって・・・止まって下さらないと・・・着物が・・・」

いくら着物に慣れているとはいえ、長い時間走れば当然着物は乱れる。
辛うじて乱れを最小限に止めていたが、そろそろ限界だ。

「り、リクオ様!・・・きゃあ!」

突然リクオが立ち止まったために、つららは逆に前につんのめって転びそうになる。
そこをふわりとリクオが受け止めた。

「リクオ様、突然立ち止まるなんて・・・ええっ!!」

いつの間にかリクオは、夜の姿に変化していた。
夜の姿になったリクオは、遠慮なくじろじろとつららを見つめる。

「な、なんですかリクオ様。そんなにじろじろ見て。」

無粋に眺めてくると言ってもいいほどのリクオの絡むような視線に、つららは頬が赤くなるのを隠す様に着物の袖で顔を隠しながら、リクオに不満の声を上げた。
リクオは自分とつららを見比べ、ニヤリと笑いながらつららに話しかける。

「この先でやってんのは妖怪の夜祭りだ。
 妖怪らしい風情でいってみねえか?お前だけ人間の格好じゃ興ざめだ。」
「くす・・・ならこれでどうです?」

つららはするりとリクオの腕から退くと、ぼわん・・・と本来の姿に戻る。
ただ、着物はいつもの白いものではなく、先ほど着ていたものとほぼ同じ華やかな着物で、ただ違うのは色が淡くなった寒牡丹の模様のみ。
それにリクオとお揃いの『畏』の羽織を羽織っている。

「・・・・」

リクオは呆けたように、つららの姿に見とれていた。
ただ、綺麗なだけではない。
つららの髪の色が、いつもと違うのだ。
それは白髪というよりは、青味がかった透明色。
良く見ると、つららの髪の毛一本一本が、ごく細の澄みきった氷のようになっている。
それが、夜祭りの景色と重なって、幻想的な魅力を醸し出していた。

「どうですか、若?何も言ってくれないのですか?」

つららが艶やかに微笑む。
その魅惑的な雰囲気に、リクオは喉をごくりと鳴らした。

「へ・・・最高じゃねえか。
 今夜はお前と二人で、とことん楽しもうぜ。」
「・・・はい。」



この時、実はつららは少し期待していたのだが、リクオはまだ子供だったためか、文字通り夜祭りを楽しむだけで終わってしまった。
もちろん、リクオに悪気は無く、本気でとことん楽しんだつもりだったのだが・・・

しばらくの間、つららの機嫌が微妙に悪くなった理由を、リクオが気付く事は無かった。


end
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