作品置場

□台所は戦場
2ページ/3ページ

「・・・で、何でお前までいんだよ。」

「氷麗が牛鬼組にお見舞いに行くって聞いたから、ボクも行かない訳にはいかないだろ?」

お見舞いに行くと聞いて牛鬼組は大事なのだから氷麗だけに行かせたりせずに自分も、という事らしいのだが、氷麗は側近頭なのだから名代として申し分ないはずだ。
むしろこういう時こそ側近頭に任せたり、あるいは自分が見舞をして側近頭には万一の時の連絡をしっかりする為に本家に残しておく、というのが筋だろう。
そもそもお見舞いの中には家事の手伝いも含まれているのだから、そう考えるとリクオが来るのはかえって迷惑ではないだろうか。

そんな事を考えては頭の中で悪態をつきながら、牛頭丸はリクオと氷麗を台所へと案内した。

「やあ牛鬼、今回は大変・・・だ!?」

牛鬼が台所に居ると聞いて、一体どんな格好をしているのだろうとある種の期待を持っていたのは確かだが、そこに待ち構えていたのは、予想をはるかに上回るヒラヒラピンクな姿の牛鬼だった。

「あら牛鬼様、さっそくその格好をなさって下さったのですか?流石ピッタリですね。」

「うむ、牛頭丸も似合っていると言ってくれたからな。」

「へ?え?」

牛鬼のあまり宜しく無い意味で目が眩むような姿にも、その原因が氷麗らしいというのにも、そしてその姿を牛頭丸が褒めたらしいという事にも、一体何がどうなってこうなるのか、リクオには全く理解できずポカンと口を開けて眺めるしかない。
そんなリクオを他所に、氷麗は記念日にしか持ち歩かないはずのデシカメを取り出すと、パシャパシャと写真を撮り始めた。

「つら・・ら?」

気が付けば、いつの間にかリクオと牛鬼が隣り合わせになっている。
そればかりか、氷麗があれこれ指示を出して、牛鬼の腕がリクオの肩を抱くなど、二人に様々なポーズを取らせていた。

「ありがとうございます、牛鬼様。」

「うむ、これが奴良組の為にもなるというのであれば、気にしなくともよい。」

「ちょっと待て雪ん子!!」

あまりの展開についていけずに茫然としていた牛頭丸だったが、牛鬼の言葉にハッとなり叫び声を上げた。

「なによ牛頭丸。」

「てめぇが仕組んだ事か!というかなんでこれが奴良組の為になんだよ!」

「あら、知らないの?本家の女性陣にはこういうのってけっこう人気あるのよ。
 もちろん本家だけじゃなくて、あちこちで受けが良くて、いいシノギになるし。
 牛鬼様と鴆様は人気者なのよ。」

「な、な、な・・・」

あと最近はイタクがまた人気出てきたけど、写真がなかなか手に入らないのよね〜、と氷麗は顎に手をやりながら遠い目をする。
リクオの方はというと、牛鬼に人気があるのは良い事だけど、それならなんでボクとツーショットなんだろう、と事態を全く理解していなかった。それも無理のない事ではあるが。

「あ、忘れてたわ。牛鬼様、お食事の支度、お手伝いさせて頂きます。」

「うむ、すまんな。」

「いぃええ、写真を撮らせていただいたお礼もありますから。お気になさらないで下さい。」

「あ、氷麗、せっかくだからボクも手伝うよ。牛鬼だって台所に立っているんだし、いいだろ?」

「ちょっと待てリクオ!・・様!大将が何考えてんだ!」

「良いではないか牛頭丸。たまにはこういうのも良いものだ。」

これで牛鬼様が台所に立たなくて済むと思っていたのに、何て事を言い出すんだこのボンクラ3代目は、と牛頭丸はリクオを睨みつけたのだが、残念なことに牛鬼様はやる気満々のようだ。
最後の頼みにと、牛頭丸はリクオ第一の雪女がリクオを台所に立たせるはずが無い、と懇願するように氷麗の方を見たのだが、それは直ぐに落胆へと代わった。

「そうよ牛頭丸。それにいいショットが撮れそうじゃないの。」

デジカメを手に取り目を輝かせながらそうのたまう氷麗に、牛頭丸の中で何かが切れた。

「本家だからってふざけんじゃねぇぞ!!」



その後、台所で悪戦苦闘するリクオと牛鬼と、色んな意味で張りきっている氷麗と、そしてその脇で輝く牛頭丸の氷の彫像がみられたという。


「こういうのもたまには悪くないね、氷麗。」

「そうですね、今度は鴆様として頂くとなお良いのですが。」

「鴆は病弱なのだから、無理をさせるべきではないぞ。」

「そうだよ氷麗。あ、鍋をかき混ぜるのボクがやるよ。」

「ありがとうございますリクオ様。さあ、そろそろ盛りつけの準備も始めないと。」

「では私が食器の用意をしよう。」

「お願い致します、牛鬼様。あ、リクオ様、味見をお願いできますか?」

「どれどれ・・・うん、美味しいよ、氷麗。」


その様は、まるで床に伏した母の代わりに台所に立つ若夫婦とその父親のようだったと(牛頭丸を除く)、馬頭丸が語っていた。



end
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ